フェロ&ピコシステム研究部

希土類磁石の現状

―需給市場動向・中国関連・資源など―

フェロ&ピコシステム研究部長  山本 日登志

1.Nd磁石とは

希土類(レアアース、Rare Earth)という名称から想像される「希土類元素は非常にまれな元素である」というしばしば誤った認識があるが、希土類磁石に使われるNd(ネオジム)は、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Sn(スズ)と同等レベルの存在量がある。またDy(ジスプロシウム)についてはNdよりも若干存在量が少ないものの、それでもW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)と同等レベルが地殻中に存在する。
現在までに見つかっている希土類鉱山の埋蔵量に対して、世界のNdFeB(ネオジム・鉄・ボロン)磁石生産量で単純に割ると約840年という数字が得られ、長期的な観点での磁石主成分のNdの資源枯渇の心配は非常に少ない。
Nd磁石の成分は、Nd、Dy、Fe、Bの主要元素からなるが、耐熱性を要求されるハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)用途ではDyは保磁力を高める極めて重要な元素であり、約7wt%から10wt%のDyを必要とする。EV、HVが大量に普及するためには、Dyの調達の安定化、Dy使用量を低減する材料技術が極めて重要である。

2.Nd磁石の市場

今後のNd磁石の需要で最も伸びの大きいといわれている用途は、HV、EV等に代表される次世代環境車両用のモーターと発電機である。通常、焼結Nd磁石は本田技研工業(株)の「インサイト」で約1Kg、トヨタ自動車(株)の「プリウス」では約1.5Kg使用されている。現状の「プリウス」生産台数は約4万台/月であり、2011年のNd磁石需要は1.5Kg×40,000=60トン/月=720トン/年と見込まれる。トヨタ自動車(株)の「プリウス」以外の車種や本田技研工業(株)のHVを含めると、約1,000トン/年がHV用途である。
その他、Nd磁石の国内需要については、年率でボイスコイルモーター(VCM):9%、磁気共鳴断層撮影装置(MRI):5%、携帯電話:7%、汎用モーター:10%、家電:7%等、今後あらゆる用途分野でのNd磁石の堅調な需要の伸びが予測されている1)

3.希土類資源の供給推移

現状の希土類資源の問題点は供給が「中国一辺倒である」という偏在化現象にある。1965年〜1984年ごろはMountain pass(マウンテン・パス)時代とも呼ばれ、米国カリフォルニア州とネバダ州の州境にあるMountain pass鉱山を中心に希土類資源が潤沢かつ安定して供給されていた。ところが、80年代後半に入って中国が希土類資源の採掘を開始、外貨獲得政策の推進により希土類鉱石の価格下落が起こり、Mountain passはコスト競争力を失い閉鎖(1995年)を余儀なくされた。
その後、中国一辺倒の希土類資源供給時代に突入、希土類市場の中国占有率はいまや約97%にも達する特異な状況に至っている。さらに、旺盛なNd需要を背景に、近年、Nd、Dyは図に示すように急激な価格高騰を呈している。

4.中国希土類資源

4.1 北方希土と南方希土鉱山

中国には北方希土鉱山と南方希土鉱山の二つがある。北方希土鉱山は内モンゴル自治区から産出されるモナザイト系希土類鉱石であり、南方希土は中国南部の江西省あたりで産出されるイオン吸着鉱石である。現在生産されている希土類の大部分は北方希土類鉱床の包頭近郊にある世界最大のバイアンオボウ鉱山である。世界のNd鉱石の需要が約5万トンで、このバイアンオボウ鉱山単独で約24年分のNdを供給可能なことが、世界最大の希土類鉱山といわれるゆえんである。
一方、南方希土のイオン吸着鉱はDy、Tb(テルビウム)等の重希土類が比較的豊富で、資源採掘量は少ないものの、日本のハイテク産業に不可欠の重希土類を多く産出する。残念ながら、このイオン吸着鉱は、中国以外の他国では工業的レベルのものは発見されていない。


過去1年間のNdの価格推移
過去1年間のDyの価格推移
図  過去1年間のNdとDyの価格推移(FOB(本船渡し))中国輸出価格、
単位;$(米国ドル)/kg)

4.2 中国政府の資源保護

ここ数年、中国政府は資源政策を大転換した。10年ほど前は経済発展のための外貨獲得を最優先で促進してきたが、現在はむしろ豊富な外貨を武器に新たな資源外交戦略を打ち出している。希土類については搶ャ平主席が以下の名言を残している。
「中東に石油あり、中国に希土類あり」
"There is oil in the Middle-East. There is rare earth in China."
中国国内の希土類関係者は誰でも周知の名言である。

4.3 輸出関税

中国は90年代初め、突如それまでの輸出奨励金を廃止し、一転希土類輸出関税の付与を開始した。実際、2006年では希土類は0%輸出関税であったが、2008年には一気にNd酸化物、金属Ndは15%、DyやTb酸化物とこれら金属は25%の高関税率となっている。Dy、Tbについては他国からの供給が困難で、いわば中国独壇場の市場であり、極めて由々しい状況といわねばならない。

4.4 輸出規制「E/L(輸出ライセンス)制度」の強化

中国が資源外交に目覚めた90年代初め、E/L(輸出ライセンス)制度という金属資源の輸出規制が始まり、毎年E/Lの発行枠(総重量)が決定されるようになった。
表1に2005年から2008年の希土類、W、Sb(アンチモン)、室化ケイ素、酸化マグネシウムのE/Lを示す。ここで特に注目すべきは希土類に関して、この3年間で5万トンから3.42万トンへと約32%減の大幅な輸出規制が実施されていることである。2009年、2010年のE/Lは3万トンとさらに強化された。2011年はさらにE/L規制の一層の強化の動きが出ている。

表1 希土類を含む主な資源の中国E/L枠の推移(単位:10キロトン)
表1  希土類を含む主な資源の中国E/L枠の推移
(単位:10キロトン)

5.希土類磁石の需給

表2に中国E/L枠、NdFeB磁石合金製造可能重量、国内Nd磁石生産量の予測を示す。日本国内Nd磁石生産量は現在の市場規模と今後の需要見込みから推定した。今後のE/L枠が30,000トンで継続推移するものとすると、日本のNd磁石需要の増加に対して2014年頃にNd磁石生産量と希土類輸入量の関係が逆転、すなわちNd供給不足が発生するものと大変懸念される2、3)

表2 中国E/L枠、NdFeB磁石合金製造可能重量と国内Nd磁石生産量の予測
表2  中国E/L枠、NdFeB磁石合金製造可能重量と
国内Nd磁石生産量の予測

6.Nd磁石のリサイクル

希土類資源確保の観点から、今後は市中磁石屑のリサイクル技術が重要と思われる。そのためにはNd磁石を使用する家電や電子機器の解体、分離&回収、処理方法等いくつかの検討課題がある。現在は磁石を微粉砕し酸溶解するプロセスが主として用いられているが、その前処理として、脱磁、接着材除去、Niメッキ皮膜除去技術も必要である。そこでこの市中屑を再溶解まで戻すのではなく、回収されたNd磁石材料そのものを直接または間接的に"リユース"する省エネ、省資源の研究開発も望まれる。

参考文献
  • 1)石垣尚之、山本日登志:「永久磁石の発展とその動向」、日本磁気学会学会誌「まぐね」、Vol. 3、No. 11、525 (2008)
  • 2)山本日登志:「レアアースの市場、需要、回収、リサイクルの最新動向」、技術情報センターセミナー、2010年10月27日
  • 2)山本日登志、開道力:「自動車モータ開発のための磁性材料技術」、トリケップス、(2010年)
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