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2016.1.21

低温で銅ナノ粒子層を生成可能な銅錯体を開発

 株式会社 KRI(本社:京都市下京区、社長:住友 宏)は、低温で銅ナノ粒子層を生成可能な潜在性還元剤1)および銅錯体2)を開発しました。

背景

 近年、印刷技術を利用して電子回路、デバイス等を形成するプリンテッド・エレクトロニクスが注目され、銀ナノ粒子インクを用いた導電パターン形成技術が開発されています。 しかしながら、銀はコストやエレクトロマイグレーション3)の問題があり、銀にかわって200℃未満の温度で焼結可能な銅系インクの開発が期待されています。
 銅系インクとして、(1)銅イオン-有機化合物(主に有機酸銅)溶液系、(2)銅ナノ粒子分散液系が検討されてきました。 これらの方法にはそれぞれ以下の様な特徴があり、どちらが本命となるかは、いまのところ分かりません。

(1)銅イオン-有機化合物溶液系
・銅の酸化防止を考慮する必要がないため、長期安定性が良い
・厚膜化しにくい
銅イオンの還元温度(=銅膜形成温度)が高い
銅イオン還元後に残存する有機物の除去に高温加熱が必要
(2)銅ナノ粒子分散液系
・厚膜化が可能
・基本的に銅化合物を含む溶液から作製するため、その分だけ作製コストがかさむ
・銅ナノ粒子の酸化防止が重要
・銅ナノ粒子分散液に含まれる分散安定剤や保護剤などの有機物の除去に高温加熱が必要
・銅膜は多孔質

本技術の特徴

 KRIでは、銅ナノ粒子分散液系のデメリットから銅イオン−有機化合物溶液系に着目し、銅イオン還元の低温化を検討した結果、 ①あるヒドラジン化合物が、銅イオンの存在下では90〜100℃という比較的低温で熱分解して銅イオンの還元剤となるヒドラジンを発生すること、 ②その化合物と銅イオンからなる錯体の溶液を用いると90〜100℃でフィルム上に銅ナノ粒子層の形成が可能であること、 ③銅イオンが共存していても加熱しないかぎり還元剤として作用しない潜在性還元剤となり得ること、を見出しました。
 ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアルデヒド(亜酸化銅まで還元)は室温で銅イオンを還元可能ですが、直ぐに還元が始まるので銅系インクには使えません。 エチレングリコールやアルキルアミンも銅イオンを還元可能ですが150±20℃前後の高温を必要とします。90〜100℃という還元温度は、これまでの中では低い温度と言えます。 そして、このヒドラジン化合物の分解物は全て気化しやすいため、残存有機物除去のための高温加熱は必要ないという利点があります。
 また、錯体の有機溶媒溶液を加熱すると迅速に銅ナノ粒子分散液を生成します。生成した銅ナノ粒子は、有機溶媒の吸着層に覆われていて空気中でも安定であり、窒素気流下200℃程度で有機層を除くことができます。 現在、有機層除去の更なる低温化に取り組んでいます。
 さらに、このヒドラジン化合物と銅化合物ナノ粒子の混合物も90〜100℃の加熱で銅ナノ粒子層を形成可能です。こうしたナノ粒子が利用可能であることは、導電層の厚膜化に有利です。

 KRIでは、この新規技術を用いた銅配線パターン作製技術の開発に関して受託研究クライアントを募集します。

用語解説

1) 潜在性還元剤
外部からの刺激により分子構造が変化または分子の一部が切れ(分解し)て、金属イオンを還元できる分子(還元剤)を発生するような化合物。外部の刺激として、光とか熱が用いられる。
2) 銅錯体
銅イオンに有機分子が配位結合によって結合した化合物。ナノ粒子ではなく、分子である。
3) エレクトロマイグレ−ション
導電体において、電子の衝突により金属原子が徐々に移動して導電体の形状に欠損が生じる現象。銅より銀の方が起こりやすい。集積回路が微細化するにつれて、その影響が無視できなくなりつつある。
4) 金属ナノ粒子
粒径が1〜100nmの金属の粒子。金属本来の融点よりはるかに低い温度で焼結可能である。これは、金属がナノサイズ化することにより融解に必要な熱エネルギーが減少するためである。
5) 金属ナノ粒子インク
金ナノ粒子を溶剤に分散させたインク。
6) 低温焼結性
プリンテッド・エレクトロニクスでは、プラスティックフィルムなどのフレキシブルな基板上に回路を形成する必要性から、金属ナノ粒子インクはプラスティックフィルムの耐熱温度以下(200℃未満、好ましくは150℃以下)の温度で焼結して導電性を発揮する必要がある。

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スマートマテリアル研究センター(新素材)