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2006.9.26

次世代スーパーパワーリチウムイオン電池用「超高出力負極」を開発

―電池の出力 従来比2倍、体積・重量1/2を可能にする超高出力・高容量負極―

  株式会社KRI(社長:中芝明雄)は、HEV(ハイブリッド電気自動車)等に用いられるリチウムイオン電池に適用可能な、高容量、かつ極めて高い出力特性をもつ「超高出力負極」を開発しました。

  当社は今後、本基本技術を基に、材料メーカーや電池メーカー等からの受託研究により実用化に向けた開発を行う予定です。

背景

  HEV(ハイブリッド電気自動車)は地球環境保護に関する意識の高まりとともに、その需要は急速に拡大しており、今後もこの傾向は加速度的に増大していくと見られています。

  このHEV用の電源には、現在主にニッケル水素電池が使用されています。 しかし、動力性能の高い車種への展開や電源部の小型化等への対応を図っていくにはニッケル水素電池では出力やエネルギー密度に限界があり、より高い出力特性かつ高エネルギー密度を有するコンパクトな蓄電デバイスの開発が強く望まれています。

  一方、リチウムイオン電池は、蓄電デバイスの中で最も高いエネルギー密度を有する電池で、携帯電話等の携帯機器用電源としては確固たる位置を占めており、高エネルギー密度の特性を活かしてHEV用電源としての開発が進められています。

  従来のリチウムイオン電池は、正極にリチウム含有遷移金属酸化物、負極に黒鉛等の炭素材料を用いています。 特に負極の開発においては、炭素材料の構造や電極厚み・密度設計等の検討が進められておりますが、炭素材料のリチウムイオン容量や構造では'高エネルギー密度'という特徴を犠牲にしてエネルギー密度を低下させなければ高出力化が困難である等の課題がありました。

今回の成果と特徴

  当社は、負極材料にポリアセン系有機半導体(PAS)2)を用いて、リチウムイオン電池用の「超高出力負極」を開発しました。

  この負極は、当社が保有する'ポリアセン系材料設計技術'と'プリドーピング技術3)'に基づき開発したものであり、『リチウムイオンが移動し易い材料構造』と、『リチウムのプリドーピング制御による電極の低抵抗化』により、高容量かつ、極めて高い出力特性を実現しました。

  現在の開発品で高性能なものと比較した場合の、当社の開発品の特徴は次の通りです。

1) 高出力 : 約5倍
2) 高容量 : 約3倍
3) 材 料 : ポリアセン系有機半導体

  この「超高出力負極」をリチウムイオン電池に用いた場合、リチウムイオン電池の特徴であるエネルギー密度を活かしながら、その出力を2倍以上に高めた「スーパーパワーリチウムイオン電池」を実現することが可能と考えられ、HEV用リチウムイオン電池の体積、および重量を1/2以下にすることも期待できます。

  今回「超高出力負極」に使用したポリアセン系有機半導体は、炭素材料と比べて広い層間距離とバルキーでアモルファスな構造をもつことから3倍以上の高容量を有します。

  また、負極に炭素材料を用いたリチウムイオン電池では、リチウムを含む正極酸化物から負極炭素材料にリチウムが供給されますが、ポリアセン系有機半導体はリチウムイオンを大量に蓄える能力があるため、正極からの供給のみではリチウムイオンの量が不充分となり、この高容量という特徴を活かすためには、あらかじめポリアセン系有機半導体へリチウムのプリドーピングが必要となります。

  当社は、出力特性を引き出すために、ポリアセン系有機半導体材料自身の新規構造設計、およびプリドーピングを適切に制御することにより、電極抵抗を大幅に低減できることを新たに見出しました。
  この結果、ポリアセン系有機半導体の高容量を損なわずに出力特性を引き出すことに成功し、負極中でのリチウムイオンの移動速度を、従来の炭素材料に比べ約5倍に向上させることが可能となりました。

用語解説

1)スーパーパワーリチウムイオン電池
従来にない超高出力特性を有するリチウムイオン電池として当社が命名した。
2)ポリアセン系有機半導体
フェノール樹脂を500-700℃で熱反応させることより得られる縮合芳香族系ポリマー(導電性高分子)の総称。
1982年当社の矢田(当時 鐘紡)が開発した。
特徴である高容量、信頼性を活かし「ポリアセン電池」として平成元年に鐘紡が商品化し、現在も携帯電話のメモリーバックアップ電池を中心に販売されている。
3)プリドーピング技術
リチウムイオンをあらかじめ電極中に担持させる技術。今回の開発では高容量材料特有の不可逆容量を補償する(従来の考え)だけでなく、新たに電極の低抵抗化を可能にすることを見出した。

この内容に関するお問い合わせ

エネルギー変換研究部