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2006.8.24

光通信用次世代小型光増幅器への道を拓く希土類元素を添加した高分子光導波路を用いて高効率光増幅に成功

―増幅利得5.6dB(デシベル)/mm(従来比約5000倍)、 希土類元素濃度5%(従来比約500倍)を実現―

  株式会社KRI(本社:京都市下京区、社長:中芝 明雄)は、京都工芸繊維大学大学院 尾江教授の協力を得て、希土類元素を添加した高分子光導波路を用いた高効率光増幅の動作実証に成功しました。
  光増幅器は光通信技術における基幹デバイスですが、従来は光ファイバ型であった光増幅器が光導波路型になれば飛躍的な小型化が可能になります。
  当社は今後、本基本技術を用いて、光通信分野や光インターコネクト分野を中心に材料メーカーやデバイスメーカ等と共に実用化開発を行っていきます

背景

  光増幅器は、光通信網で長距離伝搬の過程で減衰する光信号を再びパワーアップさせるデバイスで、光ファイバ通信網を基盤とする高度情報化社会に不可欠の部品です。
  このデバイスの世界市場は400億円、国内市場でも100億円といわれておりますが、部品の小型化・コンパクト化および低コスト化による普及促進につながる技術開発に大きな期待が寄せられています。
  光増幅器の構成部品の一つとして、希土類元素を含有2)する光ファイバを用いたものがすでに実用化されています。
  希土類元素は、光に励起されることで高エネルギー状態になった後に蛍光を発する性質をもち、光増幅に相応しい蛍光材料とされていますが、濃度が高くなると希土類元素間の近接効果にともなう消光(濃度消光)3)現象をおこす、つまり蛍光を発しなくなることから添加濃度を100ppm程度に抑えなければならず、その結果ファイバが長尺化し、部品のコンパクト化を阻んでいました。

  一方、普及型低コスト光部品として透明高分子材料を用いた導波路型光素子が期待されており、希土類元素を添加する試みがなされています。
  しかし、希土類元素は有機材料に溶けないため、高分子光導波路技術に希土類を応用することは困難でした。
  希土類元素を有機錯体4)と呼ばれる化合物にしてから有機材料中に添加する手法が知られてはいますが、希土類元素をとりまく有機分子の振動が原因で消光(振動消光)3)現象をおこすため、実用レベルに及んでいません。
  つまり、希土類元素を高濃度添加しても濃度消光や振動消光を起こさず、かつ高い透明性が確保された高分子光導波路型光素子の開発が待ち望まれていました。

今回の成果と特徴

  当社は、当社の強みであるナノ粒子合成技術とナノ粒子分散技術等をベースに、希土類元素を添加した高分子光導波路を作り、さらにこの高分子光導波路を用いて高効率光増幅に成功しました。
  具体的には、希土類元素(ユーロピウム)の周囲に金属を含有する原子団を配位して数ナノメートルサイズの分子集合体の構造(希土類−金属ナノクラスター)にし、高分子材料(アクリル樹脂)に均一分散させ、希土類元素を高濃度に添加した光導波路を作成しました。
  そして、この光導波路を用いて、従来は10mもの長さが必要であった光増幅を数mm長で達成することに成功しました。
  今回の主な成果は次の通りです。

1.  高分子材料に希土類元素を高濃度添加することができた:添加濃度5%(従来比約500倍)
2.  高分子材料に希土類元素を高濃度添加しても、高い透明性を維持している
3.  高分子材料に希土類元素を高濃度添加しても、消光現象が抑制されている
4.  5.6dB(デシベル)/mmという高効率光増幅が得られた(従来比約5000倍)

  このことにより、従来の'光ファイバ型'から大幅な小型化が可能になる'光導波路型'光増幅器への路を切り拓くとみています。

  このような、希土類を添加した高分子光導波路を用いた光増幅器の研究開発は、オランダやアメリカなど欧米を中心に活発に進められていますが、増幅が約5dB/cm程度というのが実情です。

  今回の成果は、20dBの増幅(初期の光強度1のものを100倍に増幅する割合に相当)を得るために、従来の'光ファイバ型'光増幅器では約20m、'光導波路型'光増幅器を目指す世界的研究レベルでは4cmの長さを必要とするのに対して、わずか3.5mmで実現できる可能性を示唆しています。
  光増幅に必要な光伝搬距離が劇的に短くなることによって、現在一つ数百万円程度する光通信用光増幅器の小型化と低コスト化は十分可能になると考えます。

  また、数mmという短い距離で大きな増幅効果が得られることを利用すれば、次世代大容量超高速コンピュータの基幹技術として研究が進められている、光インターコネクト分野においても、信号増幅素子の形成に応用できる可能性があります。

  本技術成果は、本年8月29日から立命館大学で開催される応用物理学会で発表する予定です。
  当社は今後、受託研究を通じて、光通信分野や光インターコネクト分野における本技術の実用化を目指した研究を進めていく予定です。

*)本研究の協力者:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 尾江教授、山下助手

補足

希土類−金属ナノクラスターは、希土類元素の周囲に金属を含有する原子団を配位した分子集合体です。当社の独自技術として開発し、2005年2月に発表しました。
RGB三原色発光を実現するとともに、従来、有機材料中では困難といわれていたネオジウム、プセラオジウム、エルビウムなどによる近赤外発光も実現しました。

用語解説

1)希土類元素
希土類元素は、光によって励起されて高エネルギー状態に至ったのち、蛍光を放出する機能を持つ。このような機能を利用して、ガラス等に添加されて、蛍光灯用蛍光体、カラーデレビ用蛍光体、白色LED用蛍光体、光ファイバ型増幅器などとして、現代社会に不可欠な材料として浸透している。
2)光導波路
光を閉じ込めて伝搬させる光部品の基本形態。電子部品で広く普及しているプリント配線板に相当する。
3)消光
光によって励起されて高エネルギー状態となった希土類元素のエネルギーが、光エネルギー(蛍光)として取り出されないまま失われる現象。
4)有機錯体
中心となる原子に有機分子が配位して結合をしている構造を持つ化合物。

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