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2005.2.16

希土類元素含有ナノクラスターを用いた有機無機複合材料の開発に成功

―次世代白色LEDへの道を切り拓く新規光学材料を開発―

  株式会社KRI(社長:中芝明雄)は、希土類元素1)を含む数ナノメートルサイズのナノクラスターを有機材料に直接添加した有機無機複合光学材料の開発に成功しました。
  この材料を用いれば、待ち望まれているRGB2)発光型の次世代白色LED3)の実用化を可能にするとともに、低コストで高性能な新規光学部品や光デバイスへの普及も加速するとみています。当社はこの成果を元に、LED関連メーカーや光学材料・部品メーカー等と共同で2008年度の商品化を目指したプロジェクトを立ち上げます。

背景

  希土類元素は、1885年頃ガス燈の輝度を向上させるためにセリウムが使われて以来、光技術の基幹材料として社会に浸透しており、多彩な光学効果の発現が認められていますが、プラスチック等の有機材料に溶けない等の理由から、プラスチック化が進む様々な光学部品や光学デバイスにおける実用化は殆ど進んでいないのが現状です。
  数少ない実用例としては、白色LEDがあります。この製造方法として、希土類元素を無機材料に添加した後、粒子状にして有機材料中に練り込む方法がありますが、高温加熱および粉砕処理を必要とし、設備コストが高いという課題があります。さらに、粉砕して製造する粒子の大きさは5ミクロン程度と大きく、有機材料の透明性を阻害する等の問題点もあります。また、希土類元素を有機錯体4)と呼ばれる化合物にしてから有機材料中に直接添加する方法もありますが、消光5)現象を抑えるために高価なフッ素や重水素を用いなければならず、材料コストが高くなるという課題があります。

今回の成果と特徴

  当社は、複アルコキシド構造と呼ばれる1〜2ナノメートルサイズのナノクラスターを合成することにより、

1.フッ素や重水素等を用いずに希土類元素を有機材料中に直接添加すること
2.消光現象を抑制すること
の両立に成功し、有機溶媒中におけるセリウム(青色)、テルビウム(緑色)やユーロピウム(赤色)の希土類元素の発光を確認しました。
  本成果は、当社独自の有機無機ハイブリッド技術、光学技術等をベースにした研究から得られたものです。本成果により、特に照明用としてのニーズが高いRGB発光型の白色LEDの開発が可能となるほか、新規光学部品や光デバイスの低コスト化・高性能化が可能となります。
  様々な用途のうち、白色LED用蛍光体を想定した場合の主な特徴は次の通りです。

1.製造コスト:従来比1/10
      材料合成時間は実質2日程度、高温加熱等のプロセスが不要、フッ素や重水素等の特殊原料が不要。
2.高濃度添加が可能:従来比20〜100倍
      高濃度でも消光現象を抑制できる。
3.発光中心の大きさ:従来比1/1000
      ナノクラスターは、クラスター同士がくっついても5ナノメートル程度にコントロール可能。

期待できる効果

1.  次世代白色LED、およびこれを用いた照明用光部品や液晶ディスプレイ用バックライト(新規発光材料)
      ・・・ 消費電力や発熱量の小さい今後の照明用部品の柱として期待されている白色LEDに不可欠な、
                より演色性に優れた高性能RGB発光材料が開発できます。
2.  ハロゲンランプの防眩レンズ機能に代表される調光光学部品(光学部品の新展開)
      ・・・ 希土類元素の特定の波長の光に対する吸収が選択的に強いという特徴を活かし、防眩機能をもつ
                自動車のヘッドライト等の光学部品のように、現在ガラスが主流である母材のプラスチック化が
                可能になり、軽量化・低コスト化が図れます。
3.  光増幅器(先端光部品の実用化を可能に)
      ・・・ 現在約100メートルにもおよぶ長尺の光ファイバーに希土類元素(エルビウム等)を添加して
                製造している光ファイバー増幅器に対して、高分子光導波路に希土類を添加することにより
                低価格化・小型化を可能にします。

今後の予定

  当社は、本成果をもとにLED照明・部品・部材等関連メーカー、光学部品メーカーや樹脂メーカー等を対象にクライアントを募集し、本年6月にマルチクライアントプロジェクトを立ち上げます。本プロジェクトでは、発光特性や材料合成プロセス等の検討を行い、クライアント別に2008年度の商品化を目指した応用開発研究に展開していく予定です。


  また、本成果発表については、次のように予定しています。


2月23日〜25日 『nano tech 2005』へ出展 (至 東京ビッグサイト)
3月29日〜 『応用物理学会学術講演会』にて研究成果発表予定 (至 埼玉大学)
5月25日〜 『第22回希土類討論会』にて研究成果発表予定 (至 千里阪急ホテル)

用語解説

1)希土類元素
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、そして15の元素群をさすランタノイド(L)の、計17個の元素の総称です。特にランタノイド系列の元素は、セリウム(Ce)が19世紀末にガス灯に使用されて以来、光技術には不可欠の材料として私たちの生活に浸透してきました。ユーロピウム(Eu)の利用によって鮮やかな色調のカラーテレビが実現したり、より自然な色調を呈する高演色蛍光灯にランタン(La)、セリウム、テルビウム(Tb)等が使われています。また近年では、先端オプトエレクトロニクス技術として光通信技術を支える光ファイバー増幅器にエルビウム(Er)が、白色LEDにはセリウムが使われる等、現代社会を支える基幹材料としての役割が一層高まっています。
2)RGB
赤、緑、青。光の三原色。
3)LED(light-emitting diode)
発光ダイオードの名前でも知られる半導体発光素子です。電子機器のインジケータやリモコン用センサー、壁面大型ディスプレイ等に使われている、現代社会に不可欠な基幹電子部品の一つです。日亜化学にいた中村修二氏(現、カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)が窒化ガリウムを用いた青色LEDを実用化したのち急速に用途が広がりました。さらに、この技術を応用した白色LEDが中村氏らによって開発されて以来、次世代照明用光源としての役割が期待されるようになり、実用化に向けた産官学連係国家プロジェクトである通称『21世紀あかりプロジェクト』が推進されました。白色LEDの市場規模は、2003年度実績で1,840億円(この内国内は約40%)であり、2008年度には約3,100億円(この内国内は約30%)と予測されています。
4)有機錯体
中心となる原子に有機分子が配位して結合をしている構造を持つ化合物。
5)消光
希土類元素のエネルギーが光として取り出されないまま失われる現象。

この内容に関するお問い合わせ

スマートマテリアル研究センター(ICT/次世代通信)