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2003.5.28

新方式『パネル型アクティブ磁気シールドシステム』を開発

〜EB(電子ビーム)露光装置や生体磁気計測用に展開〜

  株式会社関西新技術研究所(KRI:社長 竹内正明)と株式会社竹中工務店(社長 竹中統一)は、財団法人いわて産業振興センターの協力を得て、新方式の『パネル型アクティブ磁気シールドシステム』を開発しました。

  磁気シールドとは、EB(電子ビーム)露光装置によるICa)LSIb)などの製作時、あるいは心臓が発する微弱な磁界(地磁気c)の100万分の1程度)である心磁やさらに微弱な脳磁の計測時等において、その障害となる環境磁気ノイズd)を遮蔽する装置です。 この環境磁気ノイズによる障害として、EB露光装置の場合にはウエハーe)上にICを焼付ける電子ビームを曲げる現象や、心磁や脳磁が正しく計測されない、という現象があります。中でも、交通車両やエレベーターの移動、ドアの開閉などにより起こる非定常な近傍ノイズについては、密度差(空間的にノイズに偏り)があるため遮蔽の難易度が高く、従来の磁気シールドでは十分な遮蔽が出来ていません。

  従来の一般的な磁気シールドには、磁性合金であるパーマロイを使用した多重構造の壁で包囲するものがあります。このシールドは、パーマロイが磁気を収束する性質を利用してシールド内部に磁気が透過しにくいしくみになっています。しかし、パーマロイが希少金属で高価であるため、十分な遮蔽を得るために多額な投資を要し、なお非定常なノイズは十分に遮蔽しきれないという問題があります。
  また、通気性や視認性が悪い、現場での施工に日数がかかるほか、生体磁気計測用のものでは2メートル角程度という大きさに重量も数トンとなるため、設置階の制約を受けしかも移設が困難であるといった多くの課題があります。

  今回、KRIと竹中工務店が開発した『パネル型アクティブ磁気シールドシステム』は、これらの課題を大きく改善するシステムです。
  棒状の磁気センサと電子回路を一体にした、50センチ角のコイルを巻いたパネルを複数組み合せ配置する工法により、任意の形状の磁気シールドルームを構成することが出来ます。施工現場の状況に応じて、あらかじめソフトウェアによる設計を行い棒状のセンサの固定位置を定めることで、密度差のある非定常な環境磁気ノイズと逆位相f)の磁界を作り出し、遮蔽空間全体にわたって均質に遮蔽することが可能になりました。通常想定できる環境磁気ノイズは数ミリガウス程度ですが、その100倍程度の非定常な近傍ノイズに対しても残留ノイズを0.1ミリガウスにするという点が画期的なことです。この方式により、従来は困難であった遮蔽性能が低コストで実現しました。
  主な特徴は次の通りです。

1.  高い遮蔽性能(残留ノイズを0.1ミリガウスにする)
2.  均質な遮蔽空間
3.  高い視認性
4.  高い通気性
5.  軽量
6.  パネル工法による施工性の向上
7.  近傍ノイズに対しても遮蔽性能を有する

  本システムは、KRIが新方式の提案、電子回路や制御ソフトウェアの開発を、竹中工務店が市場調査、設計ソフトウェアの開発・実験を行い、岩手県地域結集型共同研究事業の推進する心磁計システムプロジェクトにおいて実物大モデルでの実証実験を行いました。実証実験では、キューブ型とチューブ型のシールド装置を試作し、キューブ型で1/18、チューブ型で1/30の遮蔽性能を確認しています。
  今後は、事業化を視野に、装置の設計・製造、評価等をKRIが行い、主にEB露光装置や生体磁気計測用にプロトタイプを販売していきます。

  なお、本システムについては、5月30日・31日に開催される第18回日本生体磁気学会(大阪府池田市)において発表および機器の展示を行います。

  新方式『パネル型アクティブ磁気シールドシステム』を採用すると、コストを抑えながら性能向上が図れ、設置階の制約から解放されるともに移設が容易になります。生体磁気計測(心磁や脳磁の計測)における被検者にとっては、密閉空間という閉塞感や不安感がなくなる点も大きなメリットと言えます。
  また、EB露光装置においては、次世代半導体製造設備として0.1μm以下という超微細な製造プロセスが要求されますが、このプロセスにも十分対応可能となります。

脚注

a. 〔integrated circuit〕集積回路の一つ。数ミリメートル四方のシリコンまたはガリウムヒ素などの半導体を加工して、多数の回路素子を組み込み電子回路として機能するようにしたもの。小型・軽量で消費電力が小さく、コンピューターをはじめ、多くの電気製品に用いられる。
b. [large-scale integrated circuit]集積回路の一つ。多層化・微細化などにより IC よりさらに素子の集積度を高くしたものをさす。高密度集積回路。大規模集積回路。
c. 地球がもつ大きな磁石としての性質によって生ずる磁場。磁針が地球の南北を指すのは地磁気の存在による。 一定不変ではなく、周期的にまた不規則に変化している。地球磁気。0.5ガウス程度。
d. 鉄やその他磁性材料には、磁界を引き込む性質(透磁性)があるため、これらの材料で作られた構造物には局地的に地磁気が収束されています。構造物の移動や振動に伴って周囲の地磁気も不規則に変動します。具体的には、建物の揺れ、交通車両やエレベーターの移動、扉の開閉、送電線やモーター、ファンなど、磁気ノイズが発生します。これらを総称して環境磁気ノイズと呼びます。
e. 集積回路の基板。
f. 逆位相の磁界とは、符号が逆向きで大きさが同じ磁界のことです。いわば、鏡に映ったように変化する信号です。両者を足し算することで0(無)に、すなわちキャンセルされます。

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