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2021.3.4

蟹殻から高品質なキチンを得る簡便なプロセスを開発しました

 株式会社KRI(本社:京都市下京区、社長:川崎 真一)は、蟹などの甲殻類の殻から直接キチンを溶出できる新規溶媒を開発しました。この新規溶媒を用いることで、蟹などの殻から高品質のキチンを短時間で製造することができるようになりました。

背景

 キチンは、蟹、エビをはじめとして、昆虫、貝、キノコにいたるまで、きわめて多くの生物に含まれています。キチンは、セルロースに次いで豊富に存在するバイオマスであり、地球上で合成されるキチンの量は1年間で1,000億トンにもなると推計されています。近年は、この資源豊富なキチンの応用展開が加速しており、フィルム・繊維・バイオプラスチックなど様々な用途が開発されています。キチンは、鎮痛効果、肉芽形成、創傷治癒促進などの効果があるほか、抗原性を持たないため、火傷や褥瘡等の創傷被覆材として認可を得た商品も市場に出ています。
 しかし、蟹などの殻は、炭酸カルシウム、蛋白質とキチンが鉄筋コンクリートのように組織化された極めて強固な構造を持ち、その中からキチンを単離することは簡単ではありません。
 通常の方法では、蟹などの殻を48時間かけて塩酸水溶液処理で炭酸カルシウムを除去した後、さらに36時間かけて水酸化ナトリウム水溶液処理で蛋白質を可溶化してキチンを固体として回収します。この工程は長時間であることに加え、中和処理により汚泥と廃水が大量に発生し、また、強酸と強アルカリ処理をすることでキチンの品質が劣化するといった問題があります。
 さらに、単離したキチンは水素結合による強固な結晶構造を保っていることから普通の溶媒には溶けません。キチンからキチン成形品を製造するためには、ギ酸やトリクロル酢酸/塩素化炭化水素混合溶媒法、メタノールの飽和塩化カルシウム溶媒法、または塩化リチウム/ジメチルアセトアミド混合溶媒法などの特殊な方法でキチンを溶解する必要がありますが、いずれの方法も強酸や高温などの苛酷な溶解条件となることに加え、溶媒が生体や環境に有害であるといった問題があります。

本技術の特長

 KRIは、長年にわたり、多糖類の溶解技術を蓄積してきており、2012年には新規セルロース溶媒を開発するなどしてきましたが、今回、安全性が高くキチンが良く溶解する新規キチン溶媒を開発しました。従来のような強酸や高温といった条件を経ないことからキチンに対するダメージが少なく、分子量とN-アセチル化度などのキチンの性質が高度に維持された高品質なキチンであるため、機能性材料への成形、キチン誘導体への変換などの加工を簡便に行うことができるほか、従来技術では繊維質強度の問題や溶剤の残留の問題などから実現に至っていない手術縫合糸への応用も期待できます。
 また、室温で短時間にキチンを溶解するため、蟹などの殻からキチン成形品を得る製造プロセスは、下図に示すように、従来工程の1/10以下にまで短縮され、これにより大幅なコスト低減と省エネルギー化を図ることができます。さらに、有害な溶媒を用いないことから生体や環境に優しいという特長も有しています。

本新規溶媒を用いたキチンの応用分野

 今回開発した新規溶媒を用いることで、時間とコストを大幅に縮減しつつ加工の容易な高品質のキチンが得られることから、上述の手術縫合糸その他、これまで汎用材料としての応用が難しかった繊維やバイオプラスチックでの新たな利用が期待されるなど、キチンの利用分野と使用量の拡大を通じた資源創出に貢献することができます。特に、従来プラスチックの代替としてのバイオプラスチックの利用拡大は、環境改善の点でも大きな効果をもたらすと考えられます。
 また、既に製品化されている分野でも、低コストで容易に加工できることから、キチンのさらなる利用拡大が期待されます。
 新規溶媒による主な製品例と期待できる応用分野は下表の通りです。

今後の展開

 今後は、キチンの機能性材料への実用化に向けて材料メーカーからの受託研究を行っていく予定です。

用語解説

1)キチン
キチン(chitin)は、N-アセチル-D-グルコサミンが鎖状に長くつながったアミノ多糖です。キチンは工業的にはエビ、カニの甲羅から分離されています。
2)キチン誘導体
キチンに新しい機能を導入するため、キチンの水酸基をエステル化修飾したり、N-アセチル基を除去したりすることにより、機能性キチンやバイオプラスチックや機能性材料に変換すること。
3)キチンナノファイバー
キチンを構成している最も小さい結晶単位です。直径数nm〜数十nmと長さ数μm〜数百μmの形状を有しています。大きい表面積を持つため、補強材、増粘剤、吸着材、食品添加剤などへの応用が開発されています。
4)キトサン
キトサン(chitosan)は、主としてD-グルコサミン単位からなるものです。キチンを脱アセチル化するとキトサンに変換されます。コレステロール・脂肪・腸内の腐敗菌を抑える効果、免疫増強作用などの生理活性を持ち、健康食品として利用されています。また、キトサンに由来する抗菌剤や廃水処理用凝集剤は市販されています。
5)グルコサミン類
N-アセチルグルコサミンやグルコサミンなどのアミノ糖を指します。メタボリック症候群や腎不全の進行を抑制する効果があると言われています。

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スマートマテリアル研究センター(エコフレンドリー/QOL)