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2022.2.1

環境に優しいアラミド樹脂の新規溶解法を開発

―繊維・不織布・フィルムなどへの成形加工が可能に―

日刊工業新聞2022年2月1日掲載
「アラミド樹脂 成形自在」(pdf)
※日刊工業新聞社に転載許可を申請し、承認を受けて掲載しています。

 株式会社 KRI(本社:京都市下京区、社長:川崎 真一)は、アラミド樹脂の新規溶解法を開発しました。アラミド樹脂は、高強度・高耐熱性を有し防護服や光ファイバーなどで用いられている樹脂です。
 従来は、濃硫酸で溶解するなど環境への負荷が高く、設備も大規模なものになりがちでした。今回開発した新規溶解法を用いることで、環境に優しいマイルドな条件でパラアラミドなどのアラミド樹脂を溶解することが可能になるだけではなく、従来の繊維に加えて均質フィルムやスパンボンド不織布(長繊維不織布)などにも成形加工することができるようになりました。

背 景

 ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)などのアラミド樹脂は剛直で直鎖状の骨格を持つために、高強度・高耐熱性であり、同じ重さの鋼鉄と比べて5倍の強度を有しています。その代表的な製品はケブラー®(アラミド繊維の一種)で、防弾チョッキなどの防護服、光ファイバー、タイヤコード、航空宇宙と電気絶縁などの用途で広く用いられています。ところが、PPTAは結晶性のポリマーであり、一般の有機溶媒に溶けず、溶融もしないために成形が困難なポリマーです。
 例えば、ケブラー®は、濃硫酸に溶解したアラミドポリマーの液晶溶液をドライジェット湿式紡糸で紡糸することによって製造されています。
 近年、電気製品の小型軽量化・薄型化により回路の高集積化に伴う機器の高密度化が進む中で、配線基板、絶縁材料用途などで耐熱性フィルムが注目を浴びています。現在までに、開発、上市された耐熱性フィルムの中で、ポリイミドフィルムは最も耐熱性が高く、また耐溶剤性、寸法安定性に優れており、フレキシブルプリント配線基板、耐熱絶縁材料等の用途に最も広く用いられています。しかし、ポリイミドは、薄手のフィルムの製造が困難であるためこれらの用途へ適用されていません。
 アラミド、特にPPTAのようなパラ系のアラミドはポリイミド以上のトップレベルの耐熱性に加え、優れた機械的強度を有しています。このようなパラ系のアラミドをフィルム化することにより、耐熱性の優れたエンプラフィルムが得られることが期待されています。メタ系アラミド(Ⅱ)のフィルムはすでに上市されていますが、パラ系のアラミドは優れた耐熱性、機械的性能が期待されるにかかわらず、溶解可能な有機溶剤が開発されていないことから従来フィルム化は困難とされており、工業的なフィルム製造プロセスが実用化されていません。
 さらに、パラアラミドを不織布化することにより耐熱性の優れた断熱材、吸音材が得られることが期待されていますが、有機溶媒に溶解できないことからスパンボンド不織布の作成は困難でした。一方、ニードルパンチ法を利用した短繊維不織布の場合にも、アラミド繊維によりニードルパンチ機の針の大部分が破損して不織布化できないことが報告されています。

本技術の特徴

 KRIは、長年にわたり、難溶性ポリマーの溶解法を研究してきました。今回、これまで蓄積してきたノウハウを活かして安全性が高くアラミドが良く溶解する新規アラミド溶解技術を開発しました。本技術は、強酸と強アルカリ又はハロゲン化合物を使用せず、80℃以下の温度で短い時間でパラアラミドを溶解できます。従来法である100%硫酸法と比べ、設備の簡便化と溶解効率の向上が期待されます。
 この溶解法で作ったアラミド溶液(図1左)は、光学的に等方性であり、従来の濃硫酸法では作成することが困難である等方性の均質フィルム(図1中)や長繊維(図1右)が作成可能となりました。多孔質フィルム、中空繊維、スパンボンド法でバインダーフリーの長繊維不織布などの成形への展開が可能であり、高耐熱・高強度の断熱材、吸音材、電気絶縁材、フレキシブル配線基板、セパレーターなどの機能性材料としての応用が期待できます。  さらに、使用済アラミド製品のマテリアルリサイクル方法への適用も期待されます。また、新規溶媒はアラミドを選択溶解するため使用済アラミドに含まれている不純物を除去することが期待されています。
 本技術の最大特長は、次の4点が挙げられます。
① 硫酸を使用しないため環境に優しく、かつ少ない設備投資と高い安全性を実現
② 従来の濃硫酸法より低温で溶解可能であり、その溶解速度が速い
③ 光等方性フィルムの成形、薄いフィルム(厚み10μm以下)が成形可能
④ スパンボンド不織布(バインダーフリー長繊維不織布)が成形可能

応用分野

 パラアラミドの新規溶解技術の特長を活かした製品例と応用分野を下表に示します。バインダーフリー長繊維不織布とフィルムの製造及びアラミド廃材のマテリアルリサイクルが特に期待されています。

今後の展開

 今後は、耐熱性と機械的強度に優れたパラアラミドフィルム、バインダーフリー長繊維不織布を始めとする機能性材料の開発に向けて材料メーカー、それらの応用技術の開発とに向けてデバイス・アセンブルメーカーからの受託研究を行っていく予定です。

用語解説

アラミド(英語:Aramid):
芳香族ポリアミド系樹脂の総称です。分子の間は強力な水素結合によって結合されており、耐熱性は極めて高い合成ポリマーです。
アラミド繊維:
アラミド繊維は、濃硫酸に溶解したアラミドポリマーの液晶溶液を紡ぐことによって製造される合成繊維です。アラミド繊維には高強力が特徴のパラ系アラミド繊維と耐熱性などに優れるメタ系アラミド繊維がありますが、パラ系アラミド繊維は米国・デュポンと帝人が世界市場の大半を二分しています。パラ系アラミド繊維はデュポンの「Kevlar®」が1965年に世界初のスーパー繊維として開発されました。また、帝人はオランダの子会社、テイジン・アラミドで「トワロン®」、日本で「テクノーラ®」という2種類のパラ系アラミド繊維を主に生産販売しています。アラミド繊維の分子は、剛直な分子構造に加え、強力な水素結合によって結合されており、摩耗、熱、有機溶剤に対する強力な強度と耐性持ち、消防士、レーサー、軍人用の保護服、自動車および航空宇宙機器の熱シールド、電気絶縁に利用されています。
液晶:
液体と結晶の間に出現する中間相の一種で、細長い分子や円盤状の分子が、分子の方向はある規則に従って揃っているが、分子の位置は結晶ほどの強い対称性を持たない状態の総称です。
湿式成形法:
融点を持たない又は融点が高い樹脂の成形に用いた方法です。溶媒に溶解した樹溶液を成形し、貧溶媒中に凝固と洗浄した後、乾燥することにより製品を製造する方法です。
スパンボンド不織布:
スパンボンド法により製造した長繊維不織布です。原料樹脂溶液を紡糸した後、自己接着させて生産する長繊維不織布はスパンボンド不織布と言われます。  不織布の製法は短繊維不織布と長繊維不織布2つに大別できます。短繊維不織布の製造方法が、(1)まず材料から短繊維への加工、(2)次に短繊維から不織布への加工、と2段階の工程を必要としていたのに対し、長繊維法であるスパンボンド法では紡糸から不織布の形成まで一貫して加工することができるため、スピーディな生産が可能です。途切れのない長い糸(長繊維)で形成されているので強度が高く、寸法安定性に優れており、さまざまな用途にご利用いただけます。

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構造制御材料研究部