本技術は電気との変換について相性が良い「磁場」を 「低荷重で大きく変形する磁性体」によって発生させることで、「高感度かつ小型」のセンサを実現するものです。
背景・目的
●近年、ロボット工学の分野では「ロボットでより精密な動作を実行する」ために「高感度かつ小型のセンサ」が必要不可欠であることから、世界的にも高性能な触覚センサーの開発に注目が集まっています。
●「ロボットが現状より精密な動作を実行する」課題を解決する手段として、KRIでは永久磁石エラストマーを用いた小型の磁気式触覚センサーを開発しました。
特許出願済⇒特願2020-209856
本技術の特長
- 1.粘弾性磁石材料の特徴
- 粘弾性磁石材料の素材となる磁性エラストマーは、強磁性の微粒子と弾性を含む高分子材料を混合したものです。この材料は粘性・弾性・磁性を併せ持つ素材で軽量かつ形状の自由度が高く、様々な用途への展開が期待できます。また成型後に磁場を印加することで永久磁石エラストマーを作製することが可能です。永久磁石エラストマーになるとさらに残留磁化を持つようになり、「柔軟性のある永久磁石」のような振る舞いをするのが特徴です。
- 2.磁場変化を利用したセンシング
- 柔軟性のある永久磁石は、弱い力で比較的大きく変形し、内部の磁気モーメントの向きが変化し周囲に及ぼす磁場の方向が大きく変わります。この「磁場の方向の変化」をセンサによってセンシングすることにより、このエラストマーの変形量から荷重量を逆算できます。センシングに磁場を用いるメリットとして応答性が早い、電気との変換性(精度)が良いこと等が挙げられ、磁場センサーの構造が単純で済むということも合わさり「高感度かつ小型のセンサ」が実現できます
シミュレーションによる検証
- ●触覚センサーに荷重が加わった際、センサが実際にセンシングする位置で磁束密度がどのように変化するかをシミュレーションしました。
- ●シミュレーション結果から、出力信号(荷重10g,20g,50g,500g,1000g)と直線近似の結果になり「最小分解能10g」と低荷重領域が測定でき「最大1kg」と高荷重領域も測定できるという、分解能小とダイナミックレンジ大を両立したセンサーが実現できる可能性が確認されました。
KRIからのご提案と今後の展望
- 1.ロボットハンドの指先センサ
- ・指先に高感度な磁気式触覚センサを取り付けたロボットハンドは人間が無意識で行っている握力調整をより繊細に行うことができます。
現状では、ロボットの手で生卵を割らずにうまくつかむことができていません。
そこで、分解能10g程度の高感度な触覚センサをロボットの指に装着すると、モノの形状や硬さなどの力学特性をセンシング出来るようになり、それを駆動にフィードバックさせると実現が近づくと思われます。この触覚センサの技術は、義手、ロボットの手の設計や開発に大きく貢献できることが予想されます。
- 2.今後の展望
- ウイズコロナ時代にはロボット技術がジャンプして、殺菌ロボット、宅配ロボット、接客ロボットなど実用化が進んでおります。お掃除ロボットに代表されるようにロボットの足はほぼ技術が出来上がってきておりますが、ロボットのハンドについては、ドアを開けることや物を把持することなどまだまだ未熟です。ロボットハンドが進化すれば家事手伝いのサービスロボットや介護ロボットなどの用途が開け、ロボットはインフラにまで発展することが予想されます。ロボットハンドの進化は触覚などのセンサがポイントになり、私たちは触覚センサの開発を加速させていきます。