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2017.10.6

六方晶窒化ホウ素を含む樹脂複合材の熱伝導性を大幅に改善

〜酸化グラフェンによる新規表面改質技術を開発〜

 株式会社KRI(本社:京都市下京区、社長:田畑 健)は、六方晶窒化ホウ素1)に新開発の酸化グラフェン2)表面改質技術を適用することで、窒化ホウ素表面と樹脂との接着性を向上させ、窒化ホウ素を含む樹脂複合材3)の熱伝導性を大幅に改善させることに成功しました。

概要

① KRIは、グラフェンを基本構造に持つ炭素材(グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバーなど)やグラファイトと類似の構造を持つ六方晶窒化ホウ素粒子を、酸化グラフェン水分散液に混ぜるだけで、それらの表面に酸化グラフェンが貼り付く現象を新たに見出し、この現象を利用した無機材料の表面改質技術を新たに開発しました。
② この表面改質技術を適用した六方晶窒化ホウ素を含む樹脂複合材の熱伝導性を評価したところ、表面改質技術を適用しない場合に比べて2〜3倍にまで大幅に改善させることができました。酸化グラフェンが六方晶窒化ホウ素の表面を覆うことにより、接着性の悪い六方晶窒化ホウ素と樹脂とが隙間なく接着するため、両者の間で熱が伝わりやすくなったためと考えられます。
③ 本技術は、六方晶窒化ホウ素の高熱伝導性、絶縁性という優れた性質を活かす樹脂複合材の開発に寄与するものと期待されます。

背景

 電子・通信機器の小型化・高精度化や高機能化に伴い、集積回路の発する熱を効率的に放熱する高熱伝導性材料が求められており、その主流は、高熱伝導性粒子(グラファイト、六方晶窒化ホウ素、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミ(AlN)など)を樹脂に混合した樹脂複合材です。特に電気自動車においては、電気絶縁性樹脂複合材が注目され、使われる高熱伝導性粒子として、熱伝導性、電気絶縁性および化学的安定性の点から、六方晶窒化ホウ素が期待されています。
 しかし、平板状形態の六方晶窒化ホウ素粒子の大部分を占める平面には樹脂が接着しにくいので、その樹脂複合材は、六方晶窒化ホウ素粒子が凝集したり空隙やクラックなどが発生しやすくなり、樹脂複合材の熱伝導性や機械的物性を低下させる要因となっています。対策としてシランカップリング剤処理などが行われていますが、平面部分には効かない問題があり、有効な方法が求められています。KRIはこれまで酸化グラフェンについて研究を進めてきましたが、「酸化グラフェンシートが貼り付く」現象に着目し、本表面改質技術を開発したものです。

本技術の特徴

① 六方晶窒化ホウ素粒子粉末を酸化グラフェン水分散液に加え混合し、沈殿した粒子を回収・乾燥させるだけの簡便な改質方法です。酸化グラフェンの量産が始まり用途展開が進む現在、コスト面でも現実的な表面改質方法と考えられます。
② 酸化グラフェンシートが貼り付くことにより、六方晶窒化ホウ素粒子表面は酸化グラフェンを構成する炭素成分で覆われるだけでなく酸化グラフェン由来の酸素含有官能基(カルボキシル基、水酸基、エポキシ基)が導入されます。酸素含有官能基に他の化合物を化学結合させることにより多様な樹脂との接着性をカスタマイズしたり、酸化グラフェンを還元して還元型グラフェンにして物性を変えることも可能となるなど、様々な応用展開が期待できます。

今後の展開

 本技術は、六方晶窒化ホウ素の表面改質に効果的と考えられますので、これを用いた熱伝導性複合材を研究開発する分野での受託研究を募集します。

用語解説

1) 六方晶系窒化ホウ素(h-BN)
窒化ホウ素には、立方晶系の高圧相と六方晶系の常圧相があり、前者は高温高圧下で形成され、ダイヤモンドに類似した結晶構造と似た物性を持ちます。六方晶系窒化ホウ素は、窒素原子とホウ素原子からなる六角網面が二次元に広がる結晶シートがファンデルワールス力で重なった構造を持つ板状粒子です。類似の構造はグラファイトにみられ、電気伝導性以外は両者に似た物性がみられます。シート表面(結晶学的に0001面という)は、化学反応しやすい官能基(酸素原子や窒素原子を含む原子の集団であって、互いに共有結合でつながっている)を持っていないので化学的に安定である一方、シート端面は化学反応しやすい官能基を持ちます。
2) 酸化グラフェン
酸素含有官能基(酸素原子を含む原子の集団で、互いに共有結合でつながっている)を有するグラフェンで、炭素原子1個〜数個分の厚さを持つシート状物質です。グラファイトをハマーズ法として知られる公知の方法を用いて酸化・精製・剥離処理して水分散液として得られます。
3) 樹脂複合材
ゴムや樹脂に、炭素材、金属、金属酸化物、金属水酸化物等の無機粒子を混合した材料で、樹脂の機械的強度、耐熱性、熱伝導性、ガスバリア性が向上します。無機粒子表面と樹脂表面は互いに性質が大きく異なるので、両者が接すると互いに排除しようとする力が働き、無機粒子への樹脂の接着は起こりにくく、樹脂中の無機粒子の凝集、空隙やクラックなどを発生させ、樹脂複合材の熱伝導性や機械的物性を低下させる要因となります。対策としては、無機粒子表面をシランカップリング剤などで有機化して無機粒子表面の性質を樹脂表面に近づけることが行われています。

この内容に関するお問い合わせ

スマートマテリアル研究センター(エネルギー)