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2015.10.21

生体リズムを改善する天然成分のスクリーニング方法を開発

 株式会社 KRI(本社:京都市下京区、社長:住友 宏)は、天然物・食品などの生理活性評価法について研究を進め、今回、酵母細胞を用いて、核内受容体REV-ERBαに作用し活性化させる物質を、簡便に評価する手法を構築しました。

背景

 2015年4月より機能性表示食品制度1)が施行され、機能性を持つ素材を開発するニーズや素材のもつ機能性を迅速にスクリーニングするニーズが高まっています。
 近年、ヒトの健康に関係する遺伝子発現制御に関わる『核内受容体2)』が注目を集めています。
 KRIでは、この核内受容体に働きかけて少量でも大きな影響を与える物質『核内受容体リガンド』を、蛍光特性を持たせた細胞の発色という形で定量的に評価する手法を構築しました。 この手法を用い、これまでに、脂肪代謝に関係する核内受容体PPARの作用を活性化するリガンドが、発酵食品の中に存在することを見出しました。
 今回、生体リズム改善に関係する核内受容体REV-ERBαに作用するリガンドを評価する手法を構築しました。 この評価法により、時差ボケと言った誰もが経験する症状を軽減する食品が見つかる可能性があります。

生体リズム改善に関する核内受容体
 ヒトを含む多くの生物は、時刻によって変化する太陽光や温度などの環境に適応するため、体内に24時間周期の「体内時計」を備え、この体内時計のリズムはいくつかの「時計遺伝子」によって刻まれています。 核内受容体REV-ERBは、この「時計遺伝子」を制御しており、中でもREV-ERBαとβが中心的な役割を果たしています。
 朝、目覚めて、夜、眠くなる覚醒と催眠のサイクルや、食欲、血圧、体温調節、ホルモン分泌などの周期パターンは、体内時計によりコントロールされており、体内時計が狂うと睡眠障害や高血圧、季節性うつ病、メタボリックシンドロームなどの発症につながりやすいことが報告されています。 変調した生体リズムを改善するためには、時計遺伝子を制御する核内受容体REV-ERBのスイッチをオンする必要があります。このスイッチをオンにする物質(リガンド)を含む食品を食べるだけで、これらの症状が改善できる可能性があります。

今回の成果

 KRIは、核内受容体REV-ERBαリガンドの評価を、酵母細胞を用いて簡便に行う手法を構築しました。この酵母細胞には、あらかじめ、このリガンドがあれば蛍光物質を生成する遺伝子を導入しておきます。 評価方法は簡便で、この酵母細胞にサンプルを添加し、ほぼ一晩置いておくだけで実施できます。サンプル中にリガンドがあれば、この酵母が蛍光を発し、なければまったく光りません。 また、蛍光の強さを測定することにより、リガンドの機能の強さが評価できます。
 さらに、この評価手法を用いて身近な食品をスクリーニングしたところ、甘酒や納豆など日本の伝統的な発酵食品に、REV-ERBαのリガンドが存在することがわかりました。これらの食品は、生体リズム改善に効果がある可能性があります。

応用例

 生体リズムに関する研究は医学的には進められてきましたが、健康食品としての可能性は、特保やサプリ等がたくさん出ているメタボ等に比してまだまだ未開発の領域にあります。 本スクリーニング手法を用いた天然物(微生物の代謝物を含む)、食品、化学品等による生体リズムの改善効果評価、研究を進めることにより、食品の持つ生理活性に関する研究の展開が期待できます。 さらに、本研究で見出した生体リズム改善効果を有する成分を抽出し、化学構造を同定することにより、その物質を用いた医薬品やサプリメント開発も可能です

今後の展開

 今回見出した生体リズムを改善する核内受容体リガンドに関して、食品の生理調整機能の研究やサプリメント原料としての利用研究等の受託研究を募集します。
 KRIによる核内受容体リガンド評価法は、PPAR、REV-ERB以外の他の核内受容体に関しても適用ができる方法です。今後、機能が解明されている他の核内受容体に対してもその簡易評価方法を構築し、効果のある素材をスクリーニングし、サプリメントや機能性食品、創薬への展開を進めていく予定です。
 医食同源3)という考えを基本に、核内受容体評価という基礎的な技術から入り、食品の持つ健康増進効果の研究を通して、人の健康に関わってまいりたいと考えております。

用語解説

1) 機能性表示食品制度
2015年4月から始まった、新しく機能性食品の表示に関する制度。国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる。生鮮食品を含め、すべての食品が対象。 これまで、機能性を表示することができる食品は国が個別に許可した特定保健用食品(トクホ)と国の規格基準に適合した栄養機能食品に限られていた。機能性を分かりやすく表示した商品の選択肢を増やし、消費者がそうした商品の正しい情報を得て選択できるように設けられた制度。
2) 核内受容体
核内受容体とは細胞内タンパク質の一種であり、ホルモンなどが結合することで細胞核内でDNA転写を調節する受容体です。ヒトでは48種類存在すると考えられています。 発生、恒常性、代謝など、生命維持の根幹に係わる遺伝子転写に関与していることから、創薬、機能性食品開発のターゲットになると考えられています。そのうち24種類の核内受容体の機能が解明されています(メタボリックシンドローム、皮膚関連、解毒、骨粗しょう症、生体リズム失調症等)。 今後も新しい核内受容体が発見されるであろうと予想されています。
3) 医食同源
病気を治療するのも日常の食事をするのも、ともに生命を養い健康を保つために欠くことができないもので、源は同じだという考え。

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センシングバイオ研究部