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負の熱膨張性ZrW2O8ナノ粒子の量産技術にめど

 株式会社 KRI(本社:京都市下京区、社長:住友 宏)は、負の熱膨張率を有するZrW2O8ナノ粒子量産を可能にする技術を開発しました。

背景

 通常、物質は温度が上がると体積が大きくなり、下がると縮む性質(正の熱膨張1))を持っています。 こうした物質の熱膨張は、異なる物質が高度に複合化された材料や精密機械においては破損や故障の原因となるため、制御することが求められています。
 近年、小型化・軽量化のために多用されるようになったポリマー材料も大きな正の熱膨張を示すため、それ自身の熱膨張を制御することが求められ、解決策として、温度が上がると縮む物質(負の熱膨張物質2))をフィラーとしてポリマーに混合することにより熱膨張を制御するアイデアが検討されています。 負の熱膨張物質としては、例えば、広い温度範囲に渡って高い負の熱膨張率を示すタングステン酸ジルコニウム ZrW2O8線膨張係数3)=‐9〜‐5ppm/K)がよく知られており、実用化研究が広く行われています。
 ZrW2O8の製造方法としては、白金坩堝中、高温で酸化タングステン(WO3)と酸化ジルコニウム(ZrO2)を固溶させた後、急冷する方法、または、タングステン酸塩(例えばNaWO4)水溶液とジルコニウム化合物(例えばZrOCl2))水溶液と濃塩酸とからなる混合液をオートクレーブ中で加熱処理(水熱合成法4))して前駆体粒子を合成し、得られた前駆体粒子を600℃程度の温度で熱処理する方法が知られています。 後者は、5マイクロメートル以下の小さな粒子を合成できるメリットがありますが、前駆体の合成に塩酸溶液を130℃以上に加熱するという過酷な条件が必要なため、高耐圧・耐酸性の特別な反応容器を必要とします。また、長時間反応させないと(例えば反応温度が150℃であれば10時間以上)前駆体収率が50%以上になりません。そのため設備的、合成条件的に量産が難しく、製造コストがかかる問題がありました。
 KRIでは、この代表的な負の熱膨張物質であるZrW2O8ナノ粒子を様々なポリマーに均一混合する技術を開発していましたが、さらに研究を進め、従来技術の問題点を解消した低コストで量産化が可能な新合成法を開発しました。

本技術の特徴

 従来技術では低い反応温度では長時間の反応が必要でしたが、新合成法では短時間に高収率でZrW2O8の合成が可能になりました。新合成法での反応温度の低温化、短い反応時間と収率の向上は、次のような利点を生みます。

①反応温度の低温化
 容器内の圧力が低くなるので、水熱合成法のような高耐圧性の反応容器は必要なくなります。これは、反応容器の低コスト化と大容量化を可能とします。また、従来の水熱合成法よりも投入エネルギーを少なくすることができます。
②反応時間の短縮、収率向上
 例えば、同じ組成の反応液を135℃、6時間反応させた場合、従来の水熱合成法ですと前駆体収率は39〜40%ですが、新合成法では78〜80%となり、同じ反応時間でも収率が2倍になります。このように新合成法では、投入エネルギーに対する収率を見た場合、従来の水熱合成法よりも低コスト化が可能となります。

 具体的には、新合成法では反応容器においてタングステン酸塩水溶液とジルコニウム化合物水溶液と濃塩酸とからなる反応液のみを130℃以上で加熱し、それ以外は冷却して反応液相と気相とに温度差を設けます(気相側が液相より低温)。 これにより、低い反応温度でも短時間に高収率でZrW2O8が合成可能となります。 こうしたことが起こる理由は、現在解明中ですが、反応液相と気相界面の温度差が結晶成長を促進しているのではないかと考えています。 また、気相側の温度を下げることにより反応容器内の圧力が下がるため、結果として反応容器には水熱合成法のような高耐圧性は不要となります。 この反応容器の耐圧性の制約が緩くなることにより、装置コストの低減と反応容器の大型化が容易になります。

現在、KRIでは大スケールの反応容器を試作して量産化におけるデータ取得を開始しております。
本技術に関して、委託合成先、または技術移転先を募集します。

用語解説

1) 熱膨張(正の熱膨張)
通常の物質は、温度を上げると膨張し、温度を下げると収縮します。この性質は正の熱膨張と呼ばれます。
2) 負の熱膨張物質
一部の物質は、温度を上げると収縮し、温度を下げると膨張する性質を示します。この性質は、熱膨張率が負となることから、負の熱膨張と呼ばれます。
3) 線膨張係数
材料の温度を変化させた時、材料の体積がどの程度変化するかを表したもので、一般に材料の一辺の長さが変化する割合を示す線膨張係数が用いられます。この値が正であれば正の熱膨張を、負であれば負の熱膨張を表します。
4) 水熱合成法
高温・高圧の水媒体中で化合物(主に無機化合物)の合成反応(結晶成長)を行う方法。常温・常圧では水に溶けない物質の溶解が可能となるため、通常は得られないような物質の合成(結晶成長)が可能となります。反応は、一般にオートクレーブと呼ばれる耐圧密閉容器中に出発物質と水を入れ、容器を密閉して加熱することで行われます。人工水晶などがこの方法で作製されています。

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