株式会社 KRI(本社:京都市下京区、社長:住友 宏)は、電界紡糸法1)で圧電性ポリマーをナノファイバー化することにより、高感度な感圧機能を有する柔軟薄膜を簡便に作製することに成功しました。
背景
近年、ヒューマンインターフェース2)技術が注目されており、デバイスを人体により違和感なく装着できる設計をすることが重要になってきています。人体は柔らかく複雑な形状の表面に、触覚をはじめとする種々の感覚器を有しているため、ウェアラブルデバイスにおいては、触れた際の違和感が少ない柔軟な材料が適しています。また、ウェアラブルデバイスに適用可能なセンサーのニーズが高まっております。
有機繊維は衣料用素材として長い歴史があり、ソフト(柔軟性)材料として十分な性能を有しています。KRIは電界紡糸法を使用し、圧電性ポリマーで一軸配列したナノファイバー膜を作製することにより、高性能な感圧機能を有し、かつ人体に触れて違和感のない柔軟な薄膜の開発に取り組み、この度成功しました。
本技術の特徴
KRIでは、電界紡糸法によるポリマーナノファイバー不織布の形成技術を保有しております。一般的な溶融紡糸法に比べて簡単にナノファイバーを作成することができ、適切な溶媒があれば様々なポリマーが取り扱える汎用性もあります。
本開発では圧電性ポリマーを柔軟な薄膜にするためにナノファイバー化し、さらに一軸配列することで、その膜が高性能な感圧センサーとして利用できることを確認しました。得られたナノファイバー感圧センサーの特徴は次の通りです。
①大きな出力電圧
今回試作したナノファイバー膜(厚さ20um、幅10mm、奥行60mm)は、変形の大きさに依存してmVオーダーの電圧が出力されます。また曲げる向きを反転することで正負逆の起電力が得られます。その際、一本一本のナノファイバーが感圧センサー機能を有し、振動程度の微小な入力でも電圧が発生します。
②ナノファイバーおよびその集積膜の柔軟性による高い3次元形状追従性
電界紡糸法により薄膜状に形成されたナノファイバーは、繊維径(50〜500nm:調節可能)が小さく、膜としての柔軟性が高く、破断することなく大きな3次元曲面に追従できます。
③容易なセンサー形成
電界紡糸法によるナノファイバー膜に直接電極を形成させることで、簡便にセンサーを形成できます。また、信号は圧電変換による電圧出力として取り出しますので、電源は不要です。
応用分野
医療用、ヘルスケア用の各種ウェアラブルデバイスにおける微小変位を検知するセンサーとしての利用が考えられます。
医療分野では、①入院着等に取付け褥瘡防止を目的の体圧モニタ、②体位変化モニタ、③各種内視鏡の先端・側面等に取付け人体挿入時の圧力モニタ(過剰な圧力負荷を回避し、被験者の苦痛を緩和)、④テレメディスン用(遠隔操作治療)義手等に取付けオペレータの圧力情報のフィードバックなどが考えられます。
ヘルスケア分野では、①義手や義足等の装着面の圧力モニタ ②各種人体補助アクチュエータの位置情報のフィードバック 等の応用が考えられます。
今後の展開
今後は、大面積化や積層によるセンサーアレイ化等、実用性向上のための基礎検討を行います。一方で、ソフト材料によるヒューマンインターフェースの実現については、多様な切り口から、実用化に向けた一般企業様との受託研究を通して有機ソフトセンサーの開発を推進します。
用語解説
- 1) 電界紡糸法
- 数10kVの電位差をもつ電場中にポリマー溶液をスプレーすることにより、直径がnmオーダーの微細な繊維(ナノファイバー)を形成させる方法であり、通常、不織布状の膜が形成される。KRIのノウハウを用いて得られたナノファイバーの向きが一方向に揃った薄膜を作成し、それを感圧センサーのコア部分として利用しました。
- 2) ヒューマンインターフェース
- 人間が使用するのに必要な安全性、信頼性、利便性などを持った機械システムを構築するために、人間の知覚、認知、行動を熟知した上で、利用者と機械の協調を図るとする考え方。狭義には、マン-マシンインターフェース設計になりますが、広義には日常の生活空間の設計などあらゆる分野にまたがる考え方です。