株式会社 KRI(本社:京都市下京区、社長:住友 宏)は、環境に優しいC4フッ素成分1)を用いた撥水撥油特性(防汚性)を有する高硬度・低屈折率材料を開発しました。
背景
近年、スマートフォンやタッチパネル液晶等の急速な普及により、優れた防汚性2)がディスプレイに要求されています。ディスプレイを汚れにくくするには表面の撥水性3)・撥油性4)が必要であり、一般的にフッ素系処理剤による撥水性・撥油性の付与が行われています。
また、ディスプレイ画面への映り込みを抑えるために、優れた反射防止特性5)を有する低屈折率膜のニーズがありますが、低屈折率6)と機械特性7)の両立は難しく、長期的に安定して利用できる新しい材料の開発が求められています。
本技術の特徴
KRIでは、最低限必要なフッ素を置換したC4フッ素基の導入により、環境に配慮しつつ防汚性に優れた効果のある撥水性・撥油性を有する高硬度・低屈折率材料を開発しました。
既存のフッ素や長鎖アルキルを用いた防汚膜の最大の課題は、相手側の素材に非常に付きにくく剥れやすいということであり、また既存の低屈折率膜の課題は、膜内部に細孔(数10〜数100nmの孔)を導入したり、中空微粒子を混合する等により屈折率を低減させるため膜硬度が低くなることですが、今回、C4フッ素成分とシリカ系材料を組み合わせることにより、以下の特長を有する素材を開発しました。
応用分野
スマートフォン・タッチパネル液晶および有機ELディスプレイの反射防止膜をはじめ、光ファイバーの鞘材、レンズ・フィルター用保護膜、太陽電池等の光学材料部材の表面処理材への活用が可能です。また、窓材、ガラストップコンロやシンク周りなどのキッチン部材、摺動10)表面処理膜等への適用も可能と考えます。
今後の展開
単層(1回コート)で反射防止機能が発現可能な、より低い屈折率の膜の開発を進めます。また、応用分野で求められる機能(耐熱性、機械特性、耐候性等)や撥水撥油特性の付与が必要な基材に応じた機能性表面処理膜材料の設計・開発に取り組みます。
用語解説
- 1) C4フッ素成分
- 炭素4個すべてにフッ素が置換した構造のこと。シリカ系材料と組み合わせるため、C4フッ素成分を有するシランカップリング剤を使用した。 ※従来使用されてきたC8以上のフッ素系処理剤は、その分解物が及ぼす環境への影響や生体蓄積性が懸念されるため、現在は使用が禁止されている。
- 2) 防汚性
- 汚れが付きにくい性質のこと。あるいは、汚れが落ちやすい性質のこと。
- 3) 撥水性
- 固体表面が水をはじく性質のこと。
- 4) 撥油性
- 固体表面が油をはじく性質のこと。
- 5) 反射防止特性
- 表面に光の波長程度の厚みから成る薄膜を形成し、光の干渉効果により反射率を低減すること。
- 6) 低屈折率
- 物質中での光の進み方を表す屈折率が低いこと。光学材料の屈折率は波長589.3 nmの光(ナトリウムのD線)について示すのが慣習である。
- 7) 機械特性
- 材料が持つ力学的特性の総称のこと。材料が、種類の違いにより引張り・圧縮・せん断などの外力に対してどの程度の耐久性を持つかなどの諸性質のことで、材料加工のしやすさ、加工された工業製品の耐久性などの尺度となる。
- 8) 鉛筆硬度
- 鉛筆の芯を試料表面に45°の角度で押付けて動かし、傷付きの有無により試料の引っかき硬度を鉛筆の芯の硬さ(6B〜HB〜6H)で表す。塗膜のひっかき硬度を対象としているが、プラスチックの表面硬さの評価方法としても用いられる。
- 9) 転落角(=動的接触角)
- 液体を水平な固体表面上に静置した後 傾斜させていくと、液滴は変形し、あるところで滑り出す。このときの傾斜角度を転落角という。
- 10) 摺動
- 機械の部品などを滑らせながら動かすこと。摺動性という場合は、部品同士の摩擦がなく、接触部分・可動部分が滑らかに動く、動きやすさのこと。