株式会社 KRI(本社:京都市下京区、社長:住友 宏)は、セルロースナノファイバー5)と熱伝導性無機粒子1)の複合化技術を用いて、高熱伝導率・折り曲げ性・低線膨張係数3)を兼ね備えた絶縁性放熱材(コーティング剤およびシート)を開発しました。
背景
パソコン、テレビ、スマートフォン等の電子製品の高機能化・薄型化・小型化に伴い、搭載される電子部品の放熱問題が深刻化しています。電子部品は高温環境に長時間晒されると本来の機能が発揮されなくなり、寿命も低下します。この為、放熱効率の高い部材のニーズが急速に高まっています。
既存材料としてシリコーン系放熱材がありますが、低分子シロキサン4)の発生が電子部品の接点不良を引き起こす問題を抱えています。また、アクリル系、エポキシ系、ポリイミド系の樹脂をマトリックスとした放熱材も検討されていますが、熱伝導性の無機粒子を高充填(60体積%)する為、樹脂との間に熱伝導を妨げる空隙(空気層)が生じ、期待する熱伝導率2)が得られ難く、また放熱シートの折り曲げ性(凹凸面への追従性)も低下します。加えて、これらの既存材料の熱伝導率は1.5〜4.0W/m・Kであり、十分な放熱効率を有するとは言えない為、熱伝導率が高く、凹凸面にも対応できる絶縁性放熱材の開発に着手しました。
本技術の特徴
KRIは独自に開発したセルロースナノファイバー(CNF)技術を保有しています。CNFの特徴の1つに、有機材料としては高い熱伝導率(2.8W/m・K)を有することが挙げられます。エポキシ(0.15W/m・K)やアクリル樹脂(≦0.3W/m・K)に比べて約20倍の高い熱伝導率です。この点に注目して、高い熱伝導率を有する有機マトリックスと無機粒子(窒化ホウ素)の複合化に取り組み、従来品に比して熱伝導率の高い放熱材の開発に成功しました。なお、本技術で開発した放熱材は以下の特長を有します。
応用分野
LED・CPU・パワーデバイス等とヒートシンク・金属フレームとの間に介在し、効率良く熱を伝導させる放熱コーティング剤やシートとして展開可能です。
今後の展開
放熱材の膜密度を高めることにより、さらに高い熱伝導率を持つ放熱材が得られると考えています。10W/m・K以上の熱伝導率を目指して開発を進めてまいります。
用語解説
- 1) 熱伝導性無機粒子
- 理論熱伝導率が高いとされる無機粒子のこと。一般的に、窒化ホウ素(〜200W/m・K)、窒化アルミニウム(〜280W/m・K)、酸化アルミニウム(〜30W/m・K)、酸化マグネシウム(〜60W/m・K)、酸化亜鉛(〜25W/m・K)などが用いられる。
- 2) 熱伝導率
- 熱伝導度ともいい、物体の熱の伝えやすさを表した値のこと。単位はW/m・Kで表記され、数値が高いほど物体中の熱量の移動が大きい、すなわち物体の熱の伝わりが良い。
- 3) 線膨張係数
- 線膨張率とも言う。温度の上昇に伴って物体の長さが変化する割合を線膨張係数(線膨張率)、同様に体積が変化する割合を体積膨張係数(体積膨張率)という。単位は1/K(K:絶対温度を表す単位)と表記され、温度の逆数である。
- 4) シリコーン系樹脂、低分子のシロキサン
- シリコーン (silicone) 系樹脂は、シロキサン結合による主骨格を持つ、人工高分子化合物の総称である。耐熱性と柔軟性に優れている。シリコーン樹脂製造時に除去し切れなかった低分子量物質である。
- 5) セルロースナノファイバー
- セルロースは植物細胞壁の主成分(約40%)である。結晶性でナノサイズのセルロース繊維であり、高強度を天然由来材料として近年注目されている。