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2012.10.5

有用微生物の高速スクリーニングを可能とする微生物高速分離技術を開発

―多様な生物機能の高度利活用が容易に―

 株式会社KRI(社長:成宮明)は、これまでに、微生物の積極的な活用に係る研究に取り組んで参りましたが、今回、新たに、従来法に比較して最大1000倍のスピードで、微生物を個別かつ高速に分離評価するシステム技術を開発しました。これにより、有用な微生物を高速でスクリーニングすることが可能となり、微生物機能の高度活用が容易に図れることが期待されます。

背景

 微生物の機能を利用した産業として、微生物由来製品の市場規模は、医薬品(4千億円)や化学(7千億円)や食品・サプリメント(4兆8千億円)など計6兆円規模と試算されており、今後は、より高機能・高付加価値の製品開発が望まれています。例えば、紙おむつなどの原料であるアクリルアミドは、現在、世界生産規模のほぼ半分(約30万トン)が微生物を利用して製造されています。しかし、産業に有用な微生物を探索することは、自然界に棲息する多種多様な微生物群(土壌1g中に数千万個の微生物が含まれる)から選別することが必要であり、開発の現実は、長年の経験に頼る手操作の実験作業が求められました(例えば、コレステロール低下剤(コンパクチン)のシーズ微生物を探索するためには、2年以上4名の人員で、6000の微生物を探索して1個の有望微生物が選択された)。
 一方、公的機関により微生物バンクが整備され、世界最高水準の約8万のコレクションが揃えられていますが、国内全企業の利用数は、年間4500程度(平成22年度)の状況であり、微生物を利用した産業でのイノベーションを推進するためには、多数の微生物を対象として有用微生物を探索することが必須であり、その探索を短時間に効率よく行うことを可能とする技術が望まれていました。
 KRIでは、微生物操作の効率化・スピードアップを実現できる革新技術として、MEMSを利用した微生物(生物)ハンドリングに早い段階から着目して、そのための基礎技術研究に取り組んで参りました。複数の異なる技術領域の研究者により構成されるKRIならではの取り組みと言えます。

今回の成果

 KRIでは、MEMS技術1)を応用した個別微生物のハンドリング技術(特許4451116および特許4822689)を駆使し、以下の特長を有する高速分離システム技術を開発しました。

①微細加工した専用分離チップとロボット(ソフトウェア制御)を組み合わせた高速分離スクリーニングシステムです。
②マイクロロボット技術(MEMS技術)を利用し、取扱いできる微生物数を飛躍的に拡大しました。
 
●1万個単位の微生物(大きさ1μm程度)を30分以内で分離操作が行えます。
●1回の実験操作で1万〜10万個を分離操作できます。
③分離ヘッドには、光学系センサを装備して、分離操作と同時に微生物機能由来の蛍光信号を検出し評価することが可能です。
④微生物細胞を個別分離・評価でき、従来法とは異なる種類の微生物分離が期待されます。
⑤微生物群の構成解析システム(微生物ソーター)としても適用可能です。

本システムの適用効果

①従来法では、1回実験操作(手操作)で100個程度の微生物が取り扱えますが、本システムでは、1回実験操作で1万〜10万個程度の微生物が取り扱えます(100倍〜1000倍の効率向上/スピードアップ)。すなわち、スクリーニングに要する労力・時間を飛躍的に短くすることが期待されます。
②未知の分離源からの微生物資源ライブラリー構築に貢献することが期待されます。
③微生物を短時間に個別に並べ活性状態を評価できるので、今まで実質不可能であった、複数の微生物が関与するプロセス(バイオレメディエーション2)や食品発酵)での微生物の状態評価(微生物群の構成解析と、そのアクティビティ評価)が実現可能と考えています。すなわち、複雑系としてブラックボックス状態であった微生物群の的確な状態評価を実施できることにより、革新的な工業的プロセス開発へと展開することが期待できます。
④本システムの適用例を紹介します。
 
● 金イオンの還元微生物
土壌から金酸(金イオン)を還元する能力のある微生物を分離しました。携帯電話などからの金回収(都市鉱山)など資源回収への利用可能性が考えられます。
● 汚染土壌中の微生物解析
土壌から金酸(金イオン)を還元する能力のある微生物を分離しました。携帯電話などからの金回収(都市鉱山)など資源回収への利用可能性が考えられます。

今後の進め方

 KRIは、当該システム技術を駆使し積極的な受託研究を通じて、様々な微生物機能利用が期待される下記のターゲット領域での日本の競争力強化・向上に貢献して参ります。

● 創薬(生理活性物質・医薬品シーズ)
● サプリメント (抗メタボ成分3)
● 化学原料(バイオプラスチック原料、光学活性物質)
● バイオ燃料(バイオエタノール、バイオガス、油分合成藻類)
● 土壌汚染浄化処理(バイオレメディエーション)
● 高度排水処理
● 鉱物資源開発(バイオリーチング4))、脱硫、都市鉱山)
● 微生物ソーターシステム装置の開発

用語解説

1)MEMS技術
"Micro Electro Mechanical Systems"の略称で、半導体技術を応用したマイクロロボット技術
2)バイオレメディエーション
微生物等の生物を利用した環境・土壌の汚染浄化を行う技術
3)抗メタボ成分
メタボリックシンドローム状態の進行を抑制する効果のある成分
4)バイオリーチング
微生物の金属変換能力を利用した低品位鉱の溶出処理プロセス

この内容に関するお問い合わせ

センシングバイオ研究部