株式会社KRI(社長:成宮明)は、セルロースを従来技術より低温・短時間で溶解させると共に、成形体への加工を簡便に行う技術を開発しました。持続型社会の構築を目指したバイオマス資源の有効利用技術開発が世界中で取り組まれています。今回開発したセルロース溶剤により、地球上で最も豊富なバイオマス資源1)でありながら従来は利用が難しかったセルロースの有効活用が可能となります。
背景
温室効果ガスである二酸化炭素の排出量削減に向けて、カーボンニュートラル2)なバイオマス資源利用の技術開発が注目されています。その中で、食糧・飼料供給と競合しない非食用のバイオマス資源がセルロースです。セルロースは、植物の光合成によって大量に作られ、地球上に最も多く存在する有機高分子です。しかし、その非常に強固な構造のために、従来、セルロースを溶解して加工利用するには、特別な手法が必要でした。
セルロースの溶解には、水酸化ナトリウム/二硫化炭素、銅/アンモニア、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)/水、アミド系有機溶剤/塩化リチウムなどを用いるものがあり、また、新たに、イオン液体3)を用いる溶解法(アラバマ大など)も開発されていますが、従来法のいずれもが、長時間の溶解過程または高温の加熱処理によってセルロースにダメージを与え、分子量が低下してしまうという課題がありました。
KRIは、2008年に、イオン液体を用いる溶解法において、イオン液体に有機溶媒を添加することでセルロースを短時間・低温で溶解する技術を確立しました。
技術の特長と応用展開
今回、イオン液体/有機溶媒技術を改良し、より低温、短時間、高濃度でのセルロース溶解を可能にしました。温和な条件で短時間にセルロースを溶解する技術は、従来法より安価に高品質のセルロース溶液を製造できます。
さらに、優れた流動性をもつため、繊維やフィルムへの成形や機能性材料としてのセルロース誘導体4)への変換など、加工を容易に行うことができ、従来は加工が難しかった分野への応用が可能となります。
主な加工例と期待できる応用分野は以下の通りです。
(1) | セルロース繊維 | 衣料、医療用繊維、フィルター |
(2) | セルロースフィルム | 包装用フィルム |
(3) | セルロース誘導体 | 機能性材料〔例えば光学用フィルムなど〕 |
(4) | その他成形体 | 再生木材〔例えば建材、筺体など〕 |
(5) | セルロースナノファイバー | 樹脂補強材〔フィラー*7〕 |
尚、このセルロース溶剤は、セルロースパルプのほか、綿、古紙(コピー用紙、新聞紙)からセルロースを溶解できるほか、他の多糖類、タンパク質、合成高分子の溶媒としても適用できることを確認しています。
今後、材料メーカー等と共に、セルロース機能性材料の実用化に向けて開発研究を行っていく予定です。
用語解説
- 1)バイオマス資源
- 石油などの化石資源に対し、再生可能な「生物由来の資源」を指します。
- 2 )カーボンニュートラル
- バイオマス資源は、燃焼や分解によって二酸化炭素を発生させますが、これは、植物が成長過程で光合成のために吸収した二酸化炭素を放出していることになるので、結果として二酸化炭素が増加していることにはならないということ。
- 3)イオン液体
- 室内でも液体で存在する塩をいう。通常「塩」は食塩のように常温下では固体だが、無機イオンを有機イオンに置き換えしたイオン液体は融点が低く、室温付近でも液体で存在する。高いイオン電導性・不燃性・不揮発性などの特性をもち、ある種のイオン液体はグリーン溶媒とも言われる。
- 4 )セルロース誘導体
- セルロース分子の一部を化学的に変性したもの。光学用フィルム、繊維、フィルター、水溶性高分子(増粘剤、分散剤など)、食品添加物、医薬用など様々な分野で使用される。
- 5)セルロースナノファイバー
- 「ナノセルロース」、「セルロースミクロフィブリル」ということもある。樹木などの植物細胞壁は、幅がナノサイズの結晶性のセルロースファイバー(セルロースミクロフィブリル)からできています。高強度、低熱膨張が特長の素材です。
- 6)リグニン
- セルロース・ヘミセルロースとともに、木材を構成する成分の一つで、木材の20〜30%を占める高分子化合物である。化学的にも酵素的にも分解しにくく、不溶性食物繊維に分類される。
- 7)フィラー
- 物性改善や機能性付与のために添加される充填剤の総称。