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2012.2.10

電界紡糸法によるポリエチレンアロイ化ナノファイバー不織布の作製に成功

―LIB用セパレータへの適用に期待―

背景

 次世代LIB用セパレータ3)には、性能向上に加えて高い安全性が求められています。LIB用セパレータとして従来用いられているポリオレフィン多孔質フィルム5)は、それ自身が高温で融けることでLIBにシャットダウン性能を付与することができますが、同時にフィルムそのものが大きく変形する(メルトダウン)ことが問題点として挙げられています。
 一方、性能や安全性の面で優れたLIBセパレータを形成する手法として、電界紡糸法1)によるナノファイバー不織布2)が注目されていますが、ポリオレフィンでは実現されていません。

本技術の特徴

 KRIでは、電界紡糸法によるポリマーナノファイバー不織布の形成技術を保有しており、ポリオレフィンの電界紡糸可能性について検討してきました。今回、シャットダウン性を担うポリエチレンを含むポリマーアロイ4)材料を電界紡糸することでナノファイバー不織布を形成させることに成功しました。これにより、ポリエチレン成分がシャットダウン性をもたらすと同時に、ナノファイバー形状であることが電池性能の向上に寄与し、高性能かつ安全性の高い次世代LIB用セパレータの開発が可能となります。
 期待されるLIB用セパレータの特徴は次の通りです。

(1) シャットダウン性を発現するポリエチレンアロイ化ポリマーナノファイバー膜
ポリマーアロイ技術および電界紡糸条件の詳細な検討により、ポリエチレンをアロイ化したポリマーナノファイバーからなるセパレータが成形可能となりました。形成されたセパレータは、繊維径が100nm程度の不織布状の形態を有し、ナノファイバーに含まれるポリエチレンは明確な融解挙動を示すことからシャットダウン性能の発現が期待されます。
(2) コストダウンに貢献するセパレータ膜の一段形成が可能
電界紡糸法では一工程で不織布状の多孔質膜が形成されます。従来のポリオレフィン多孔質膜では、樹脂を膜状に成形する工程と所定の孔を開ける工程の2つが必須であり、両者を比べると電界紡糸法の方が工程数が少なくプロセスコストが軽減できます。またこの方法ではLIB電極上に直接セパレータ膜を形成することも可能となり、さらなるコストダウンの可能性も期待されます。

応用分野

 新規LIB用セパレータとして、高耐熱性樹脂、高機械特性樹脂の適用などによる安全性改善による多様な電池パック外装への対応が挙げられます。また、樹脂の組合せ(アロイ化)による新規樹脂組成物を用いた新しいシャットダウン特性を付与したLIB開発も応用の一つとして挙げられます。

今後の展開

 今後は、受託研究のパートナーを募集し、より安全性の高いLIB開発のための検討を継続して進めます。クライアント様と共同で新しい設計思想によるセパレータの試作およびLIBの組立、充放電試験等の一連のLIB評価までを一貫して行い、スピーディなLIB開発を行っていきます。

用語解説

1)電界紡糸法
数10kVの電位差をもつ電場中にポリマー溶液をスプレーすることにより、直径がnmオーダーの微細な繊維(ナノファイバー)を形成させる方法であり、通常、不織布状の膜が形成される。本開発ではその不織布形状であることを最大限利用する。
2)不織布
通常布状のものは、織ったり編んだりして作るが、不織布は繊維を絡みあわせたり、接着樹脂で化学的に結合させたり、加熱して融着させたりしてシート状にしたもの。
3)セパレータ
電池の中で正極と負極が直接触れないように隔離し、かつ電解液を保持して両電極間のイオンの流れを確保する部材のこと。LIBではポリオレフィン製の多孔膜が一般的に利用されている。
4)ポリマーアロイ
金属の合金にように2種類以上のポリマー材料を混合して形成させた材料のこと。ポリマー材料の選定や成分同士の混合状態や程度によって、1種類のポリマー材料では持ちえない性能を発現させることができる。
5)多孔質フィルム
微細な孔を人為的に形成されたフィルムであり、セパレータ用には孔径が0.05〜0.μmの貫通孔を有する25〜数100μm厚さ程度のものが利用されている。

この内容に関するお問い合わせ

スマートマテリアル研究センター(エネルギー)