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2010.9.29

電極製造時にリチウムイオンをプリドープ可能な「新規プリドープ基本技術」を開発

―リチウムイオン電池等蓄電デバイスの高エネルギー密度化、高出力化を加速―

 株式会社KRI(社長:成宮明)は、リチウムイオン電池(LIB)、リチウムイオンキャパシタ(LIC)の高エネルギー密度化、高出力化に向け、電極製造時に、短時間で均一にリチウムイオンをプリドープ可能な「新規プリドープ基本技術」を開発しました。
 当社は今後、本基本技術を基に、蓄電デバイス関連メーカー等からの受託研究により実用化に向けた開発を行う予定です。

背景

 LIBは、小型携帯機器のみならず、電気自動車用電源、家庭用蓄電においてキーデバイスであり、より高いエネルギー密度、入出力特性確保に向け開発が進められております。しかし、LIBの充放電に必須なリチウムイオンは、従来、正極に用いるLiCoO2等のリチウム含有遷移金属酸化物からのみ供給されるものであり、この機構が次世代高容量材料、高出力材料の適用の足枷の一つとなっております。プリドープ技術1)を用いれば、正極にのみ存在したリチウムを負極にも導入でき、正・負極材料の選択幅が広がり、次世代高容量材料、高出力材料を用いた新たな電池設計が可能となります。
 セル内でリチウムイオンをあらかじめ電極に担持させるプリドープ技術の歴史は古く、矢田博士(現KRI顧問)を中心とした鐘紡の研究から、負極にリチウムをプリドープすることにより高電圧(高エネルギー密度)キャパシタを得られることが見出され、プリドープ技術を適用したポリアセンLIC(当時の商品名:ポリアセン電池)が1990年代初頭に商品化されました。現在、プリドープ技術を適用したLICは多くのメーカーで開発・商品化が進められており、高入出力蓄電デバイスとして、自動車・機械、太陽・風力発電等の分野へ展開されております。
 しかし、LICで実用化されたセル内での現行プリドープ法は、(1)電極製造時において特殊箔への塗布(孔開箔法2))、あるいは、セル製造時において極薄リチウム箔の貼付(貼付法3))が必要である、(2)均一にプリドープするには、1日〜数週間のエージングを含むプリドープ工程が必要であることが課題とされていました(図参照)。このように、セル内でのプリドープを実施するには、既存電極製造・セル製造プロセスと異なる部分が多く、LIBでの積極的な活用が遅れております。

今回の成果と特徴

 当社は、プリドープ技術の創始者である矢田博士を中心とし、現行技術であるセル内プリドープに対し、セル製造前の電極製造時に、活物質、導電材等を溶剤と混合混練する既存工程において、リチウム金属を加え混合混練するだけで、短時間で均一に正極、負極材料にリチウムをプリドープできることを見出しました(図参照)。
 開発した基本技術の特徴は、(1)電極製造時の使用溶剤の選定、雰囲気調整は必要なものの、既存工程で電極製造が可能となること、(2)電極製造時にプリドープ電極が得られることにより、既存工程でセルの製造が可能となること、(3)通常の銅箔、アルミ箔集電体が使用可能であることにあります。また、電極製造時にプリドープが完了することにより、従来のセル内でのプリドープ時に必要であった、セル製造時のプリドープ工程を不要とすることができます。
 セル内でのプリドープは、既存電極製造・セル製造プロセスと異なり煩雑である、コスト高(特殊箔、極薄リチウム箔の使用)になると考えられていましたが、電極製造時にリチウムをプリドープする本基本技術を用いることにより、既存製造プロセスに近い方法でプリドープが可能となり、プリドープ技術を必要とする、金属酸化物、ポリアセン系材料等の高容量材料、高出力材料を用いた次世代LIB等の開発を大幅に加速できることが期待されます。

用語解説

1)プリドープ技術
リチウムイオンをあらかじめ電極中に担持させる技術です。セル内でのプリドープ技術の歴史は古く((1)、(2)、(3))、鐘紡から1990年代初めに上市されたポリアセンLIC(LICの呼称は新しく、当時はポリアセン電池の名称で商品化された)に既に適用されました。このLICはリチウムイオンのプリドープにより、デバイス電圧を高めることが可能となり(当時3.3Vで商品化)、活性炭キャパシタ(2.5V)よりも電圧が高く設定できることから、携帯電話等のバックアップ用途で好評であり、広く普及しました。現在は、鐘紡から権利譲渡を受けた太陽誘電から販売されています。 ポリアセンLICの発明者である弊社顧問矢田静邦博士は、このプリドープ技術・手法を長く研究し、プリドープ技術を適用した超高容量LIB(PAHs電池)、新規LIC等の高性能蓄電デバイスを開発してこられました。また、矢田博士は、円筒型、積層型等のセル構造に適用できる孔開箔を用いた実用化プリドープ法(孔開箔法:(4))の発明者でもあり、この権利は鐘紡から富士重工業へ譲渡され、富士重工業からLICメーカーへライセンスされています。
2)孔開箔法
孔開箔上に電極を形成し、セル内で電極とリチウム金属と短絡させることにより、電解液の注液後、リチウムイオンが孔開箔を通り、電極にプリドープされますが、孔開箔のコスト、電極製造時の孔開箔への塗布、セル製造時に長時間のプリドープ工程が必要となることが課題です。
3)貼付法
セル製造時に電極にリチウム金属を貼り付ける方法であり、ポリアセンLICで採用された方法であり、電極が厚いコイン型セルには向いていますが、円筒型、積層型等の薄い電極を用いるセル構造に対しては、極薄リチウム箔の使用が必要となり、極薄リチウム箔のコスト、セル製造時の極薄リチウム箔の取り扱いに課題があります。
(参考文献)
1.矢田静邦、工業材料、vol.40、No.5、p.32 (1992)
2.矢田静邦、電気化学、vol.65、No.9、p.706 (1997)
3.矢田静邦、リチウムイオン電池・キャパシタの実践評価技術、技術情報協会(2006)
4.安東信雄、山口正起、木下肇、矢田静邦、WO98/033227(優先日 1997年1月27日)

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エネルギー変換研究部