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2008.11.26

生体蓄積性の低い新規フッ素系撥水撥油剤を開発しました

―ガラス接触角約110度を達成―

 株式会社KRI(社長:成宮 明)は、環境懸念物質1)であるPFOA(パーフルオロオクタン酸2)を発生しない、安全で高性能な新規フッ素系撥水撥油剤を開発しました。

背景

 従来のフッ素系撥水撥油剤にはその主成分として、フッ素原子と炭素原子8個が結びついたC8有機フッ素化合物(以下、C8)が広く用いられてきました。近年、C8はその代謝物3)であるPFOAが哺乳動物の体内に蓄積することがわかり、安全性に問題があると考えられています。例えばヒトのPFOA半減期(血中濃度が半分になるまでに要する時間)は一年以上というデータもあります。アメリカ環境保護局は、2015年までにPFOAの前駆物質3)を含むC8関連物質の使用を禁止するようフッ素化学メーカーに要請するなど、PFOA全廃への取組みが始まっています。各メーカーはC8の製造を順次中止する見込みであり、これに替わる高性能な撥水撥油剤が求められています。
 撥水撥油剤に用いられる有機フッ素系化合物は、炭素数が小さいものほど、その代謝物の蓄積性が小さくなります。つまり、C8よりC6、C6よりC4が、安全性が高いとされています。しかし一方で、撥水撥油性能は、炭素数が小さいものほど低下してしまうという性質があり、安全性と撥水撥油性能の両立は難しいとされてきました。これは、C8では分子が大きく、ある程度整列して撥水撥油性を示すのに対し、C6以下では分子の整列が乱れ、性能を発揮できないためと考えられます。

本技術の特徴

 KRIでは、分子設計技術や有機合成技術等をベースに、C8を用いず、安全性の高いC4を用いたフッ素系撥水撥油剤の開発に取り組み、撥水撥油性能をC8と同等以上に向上させることに成功しました。

 本技術の特長は次の通りです。

  1. 撥水撥油性能を発揮する成分として、その代謝物が安全性に問題のないとされるC4を用い、相互作用性官能基4)を導入することにより、パーフルオロブチル基(C4F9)を基材上に整列させ、従来のC8と同等以上の高い撥水撥油性能を実現
    ガラスに対しての接触角 水109.6°、油(デカン)61.9°

  2. 擦過刺激を与えても、相互作用性官能基の働きで、C4が自己組織化して基材上に再整列するため、撥水撥油機能が再生する

 本技術を用いると、安全性と機能性を併せ持つ撥水撥油剤が製造可能となります。さらに、上記(2)の性質から、撥水撥油機能が持続し、耐久性を持たせることが期待できます。
1.自動車ウインドウ用撥水コーティング剤
2.衣料・住居内装用撥水・防汚コーティング剤
3.ナノインプリント離型剤
4.耐指紋コーティング剤
5.反射防止コーティング剤

 今後、実用化に向けては、工業的製造方法の検討、用途に応じた分子設計およびコーティング方法の最適化が必要です。フッ素化学メーカー、コーティング剤メーカーなどと共に、応用研究を行っていきます。

用語解説

1)環境懸念物質。
化学的に安定していて自然分解されにくく、土壌や水質などの環境汚染や人体への有害性が指摘されている化学物質。フッ素系化合物では、PFOAのほかPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)などがあります
2)PFOA(パーフルオロオクタン酸)
生体への蓄積性や毒性が懸念される、フッ素化合物。炭素原子8個をもちます。
〔撥水撥油性能を示すフッ素系化合物〕
C8:パーフルオロオクチル基(C8F17基)を有するフッ素化合物
⇒〔その代謝物〕パーフルオロオクタン酸(PFOA)
C6:パーフルオロヘキシル基(C6F13基)を有するフッ素化合物
⇒〔その代謝物〕パーフルオロヘキサン酸(PFHxA)
C4:パーフルオロブチル基(C4F9基)を有するフッ素化合物
⇒〔その代謝物〕パーフルオロブタン酸(PFBA)
C6の代謝物の哺乳動物への蓄積性はPFOAのおよそ1/100であり、C6以下の代謝物は安全とされています。
C4の代謝物の蓄積性は、C6の代謝物のさらに1/10〜1/100であると推察されます。
3)代謝物、前駆物質
代謝物とは、生体内で変化して生成される物質のこと。前駆物質とは、生成される前の段階の物質を指します。
4)相互作用性官能基
官能基とは、特定の性質を付与する原子の集まりのことであり、ここでは、基同士が引き合う「相互作用」の性質を付与することを指します。

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スマートマテリアル研究センター(モビリティ/センシング)