株式会社KRI(社長:成宮明)は、独自に開発した簡便にセルロースを溶解・加工する技術を用い、高強度、低熱膨張のセルロースナノファイバー1)の製造法を開発しました。これはプラスチックの補強材(フィラー2))として有望であり、100%バイオマス由来の複合材料(グリーンコンポジット3))の創成を可能としました
背景
これまで、プラスチックの補強剤としてはガラス繊維や炭素繊維などの無機フィラーが広く使用されてきました。しかし、これらの材料は化学的に安定であり、環境への負荷が大きいという点が問題視されています。
これらに代わり、再生可能な資源として利用が期待されるのが、天然由来のセルロースです。セルロースは、ミクロフィブリルという数nm径の細い繊維で構成され、このミクロフィブリルは高度に結晶化したナノファイバーであり、軽量で高い強度・低い熱膨張係数を持つため、新しい補強材(フィラー)としての利用に注目が集まっています。
従来、セルロースナノファイバーを抽出する技術には、強酸の使用、高温処理、強い機械処理が必要であるなど、生産性やコスト面(強酸を取り除く作業がいるのでコストがかかる)で多くの課題がありました。また、抽出されたセルロースナノファイバーは、水から分離することが難しく、樹脂等へ分散させることが難しいという問題もありました。
技術の特徴
KRIは、セルロースを温和な条件(常圧、短時間、低温)で溶解する独自技術を見出しており、今回、この技術を応用して、セルロースナノファイバーを簡便に抽出する技術を開発しました。これは、有機溶媒を添加した独自の選択的溶解性イオン液体を溶剤として用い、ヘミセルロース4)などの結晶性の低い部位のみを溶解することによって、高度に結晶化したセルロースナノファイバーを抽出するものです。
今回開発した方法の特長は次の通りです。
従来法の課題であった低い生産性を改善し、製造コストを抑えることが期待できます。また、表面修飾後に粉体として回収でき、溶剤へ再分散させたり、樹脂へ分散させることが容易になり、プラスチックの補強材(フィラー)としての利用が可能となりました。
この技術を用いてパルプからセルロースナノファイバーを抽出し、天然由来のプラスチックであるポリ乳酸樹脂とのコンポジットを試作した結果、樹脂に均一に分散させることができ、この複合体の耐熱性(熱変形温度)を、60℃から150℃にまで向上させることに成功しました。
今後、材料メーカー等と共に、セルロースナノファイバーの実用化開発研究を行っていく予定です。