株式会社KRI(社長:成宮明)は、セルロースを従来技術より短時間・低温で溶解させると共に、成形体への加工を簡便に行う技術を開発しました。この新技術を用いることで、低コストでセルロースの優れた力学強度を活かした機能性材料の創生を可能としました。
背景
温室効果ガスである二酸化炭素の排出量削減に向けて、カーボンニュートラル1)なバイオマス資源2)再生利用技術の開発が世界中で取り組まれています。その中で、食糧・飼料供給と競合しない非食用のバイオマス資源として注目されているのがセルロースです。セルロースは、植物の光合成によって大量に作られ、地球上に最も多く存在する高分子です。しかし、その非常に強固な構造のために、従来、セルロースを溶解して加工利用するには、特別な手法が必要でした。
セルロースの溶解手法には、従来、アミド系有機溶剤/塩化リチウム、アミン/チオシアン酸塩、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)などを用いるものがあり、また、新たに、イオン液体3)を用いる溶解法(アラバマ大など)も開発されていますが、従来法のいずれもが、長時間の溶解過程または高温の加熱処理によってセルロースにダメージを与え、分子量が低下してしまうという課題がありました。
技術の特徴と応用展開
KRIは、イオン液体を用いる溶解法において、独自の高分子技術を用い、イオン液体に有機溶媒を添加することにより、セルロースを短時間・低温で溶解する技術を確立しました。
このイオン液体に添加する有機溶媒がセルロースの水酸基と強く相互作用するため、セルロース分子間の水素結合を切断させることができ、容易にセルロースを溶解させることができました。
本技術の特長は次の通りです。
●セルロースの溶解時間を従来の1/10以下に短縮
●溶解条件が温和である(常圧、25℃〜75℃)
●溶解したセルロース溶液は流動性に優れている
今回開発した温和な条件で短時間にセルロースを溶解する技術は、低温プロセス且つ短時間で処理ができるため、従来法より安価に高品質のセルロース溶液を製造できることが期待できます。
さらに、優れた流動性をもつため、繊維やフィルムへの成形や、機能性材料としてのセルロース誘導体4)への変換など、加工を容易に行うことができ、従来は加工が難しかった分野への応用が可能となります。主な加工例と期待できる応用分野は以下の通りです。
○セルロース繊維 ・・・衣料、医療用繊維、フィルター
○セルロースフィルム ・・・包装用フィルム
○セルロース誘導体 ・・・機能性材料〔例えば光学用フィルムなど〕の創生
○その他成形体 ・・・再生木材〔例えば建材、筺体など〕
パルプのほか、古紙(コピー用紙、新聞紙)からセルロースを溶解してフィルム化することに成功しており、パルプから成形したセルロースフィルムは、汎用プラスチック並みまたはそれ以上の強度を持つことを確認しています。また、この溶解技術の応用として、木材チップからセルロースとリグニン5)を分離する手法についても確立しており、リグニンを分離除去し、セルロース繊維やセルロースフィルムを直接加工することが可能です。
今後、材料メーカー等と共に、セルロース機能性材料の実用化に向けて開発研究を行っていく予定です。
用語解説
- 1)カーボンニュートラル
- バイオマス資源は、燃焼や分解によって二酸化炭素を発生させるが、これは、植物が成長過程で光合成のために吸収した二酸化炭素を放出していることになるので、結果として二酸化炭素が増加していることにはならないということ。
- 2)バイオマス資源
- 石油などの化石資源に対し、再生可能な「生物由来の資源」を指す。
- 3)イオン液体
- 室内でも液体で存在する塩をいう。通常「塩」は食塩のように常温下では固体だが、無機イオンを有機イオンに置き換えしたイオン液体は融点が低く、室温付近でも液体で存在する。高いイオン電導性・不燃性・不揮発性などの特性をもち、ある種のイオン液体はグリーン溶媒とも言う。
- 4)セルロース誘導体
- セルロース分子の一部を化学的に変性したもの。光学用フィルム、繊維、フィルター、水溶性高分子(増粘剤、分散剤など)、食品添加物、医薬用など様々な分野で使用される。
- 5)リグニン
- セルロース・ヘミセルロースとともに、木材を構成する成分の一つで、木材の20〜30%を占める高分子化合物である。化学的にも酵素的にも分解しにくく、不溶性食物繊維に分類される。