株式会社KRI(社長:中芝明雄)は、無機ナノ粒子の新規ウェット加熱表面改質法により、無機ナノ粒子をポリマー中に高分散できる技術を開発しました。この技術により、有機・無機ナノコンポジットの透明性や緻密性の向上を図ることが可能になります。
背景
有機・無機ナノコンポジット材料は、光学分野や半導体、エレクトロニクス分野等においてすでに実用化されているものがありますが、透明性・耐熱性・強度・導電性等、用途に応じた種々の特性の向上に対するニーズが高くなっています。
無機ナノ粒子を有機材料中に分散させる方法には、(1)溶媒中での化学プロセスにより無機ナノ粒子を合成し分散させる方法(ボトムアップ法2))と、(2)粉体状の無機粒子を、機械を用いて物理的に分散させる方法(トップダウン法3))があります。
従来、有機・無機ナノコンポジットの作製法としてはトップダウン法が主流でした。しかし、従来のトップダウン法では、ナノ粒子の表面改質処理が十分でないという課題があり、そのため表面改質処理の不十分な無機ナノ粒子とポリマーとの親和性がよくないことから分散性が低くなるという問題がありました。
成果
そこで当社は、この課題に長年取組み、従来の表面改質処理に加え、ウェット加熱表面改質法を適用することにより、表面改質処理が十分でき、有機・無機ナノコンポジットの透明性や緻密性が向上することを見出しました。
この技術の特徴は次の通りです。
1) 無機ナノ粒子の溶媒分散時に、高沸点溶媒と低沸点溶媒の混合溶媒を使う
2) 無機ナノ粒子の溶媒分散時に、解砕しながら同時に表面処理を行う
3) 表面改質処理時にスラリー状態にしてウェット加熱する(ウェット加熱表面処理)
この表面改質処理の効果は次の通りです。
1) 無機ナノ粒子の表面に存在し分散性を悪くするOH基やH2O(水)を大幅に低減する
2) 表面改質層の無機ナノ粒子への密着性を高くする(強い結合)
3) 表面改質された無機ナノ粒子のポリマー中への再分散が可能
当社は、この技術を用いて、従来法では無機ナノ粒子の分散が困難であった極性の低いポリマーの一つポリオレフィンに、チタン酸バリウムのナノ粒子を分散させ、透明なナノコンポジットの作製に成功しました。その物性は、ポリマーだけの場合と比較して誘電率が30%向上しました。
また、従来は特殊なエポキシ樹脂にしか無機ナノ粒子の分散が困難であったチタン酸バリウムを多くの種類のエポキシ系樹脂に分散させ、より透明で緻密な薄膜を成膜することに成功しました。これは携帯電話等に使用されるコンデンサに応用も可能で、誘電率を従来比5〜10倍にすることが可能となります。
この技術を用いれば、導電性・誘電率・屈折率等の向上を図ることができ、イオン伝導体、High-K材料(高誘電率膜)、光学素子等への応用が可能となります。
当社は、今後、主に樹脂メーカーや粒子メーカーとともに、具体的な有機・無機ナノコンポジットのニーズ調査を行った上で、従来ナノコンポジットの改良や、各メーカーの製品を用いた新規なナノコンポジットの開発研究を行っていく予定です。
用語解説
- 1)有機・無機ナノコンポジット
- 有機・無機ナノコンポジットは、無機ナノ粒子とポリマーを複合化した材料で、無機ナノ粒子の持つ耐熱性・強度・導電性等の種々の特性と、ポリマーの優れた成型加工性を両立することでポリマーの機能向上あるいは従来にない新機能を得られることから、研究開発が進められています。
- 2)ボトムアップ法
- 自己組織化プロセス等を有効に活用して、原子・分子を数十から数千の単位で構築する技術。溶液中でナノ粒子を合成した場合の分散は比較的容易ですが、特性の優れた結晶粒子を得るには技術的難易度が高いです。
- 3)トップダウン法
- 原料の塊を粉砕することで、バルク材料をナノスケールに加工する技術。更に凝集粒子を機械的に解砕し、有効に表面処理を施すことによりナノ粒子を分散させる方法で、結晶粒子を用いることで特性の優れた有機・無機ナノコンポジットを得ることができます。