株式会社KRI(社長:中芝明雄)は、大阪大学大学院 西山憲和助教授との共同研究1)により、塗布型の水素分離膜作製法を開発し、高い水素分離能があることを確認しました。
当社は今後、本基本技術を用いて、材料メーカーやデバイスメーカ等と共に3年後の実用化を目指したマルチクライアントプロジェクトを年内に立ち上げ、実用化研究を行っていく予定です。
背景
地球温暖化の大きな要因となっている二酸化炭素の削減については、省エネルギー対策の他に、クリーンエネルギーへの転換についても様々な分野で取組みがなされています。
現状の社会システムを活かした水素エネルギー供給システムの一つとして、天然ガスやメタノールを改質することによる水素製造方法があります。
この改質プロセスにおいて重要な働きをするのが水素分離膜です。
従来の水素分離膜では、水素のみを完全に透過する膜としては唯一パラジウム2)等の貴金属を材料に用いたものがありますが、材料が高価であること、水素によって劣化が進み性能が長く保てないこと等、課題を抱えています。
一方、パラジウム以外の安価な材料を用いる方法として、主に多孔質3)無機膜や高分子膜を用いた水素分離膜の開発も進められています。
しかし、水素以外の分子も透過することから、特に燃料電池に使われる触媒の劣化要因となる一酸化炭素を透過させないパラジウム膜並みの水素分離性能にいかに近づけるかが大きな課題となっています。
今回の成果と特徴
当社は、大阪大学大学院基礎工学研究科の西山憲和助教授との共同研究により、塗布型の水素分離膜作製法を開発し、高い水素分離能があることを確認しました。
この水素分離膜は、安価なゼオライト粉末を溶解してから塗布により製膜するものです。
溶解により得られるアモルファス4)なアルミノシリケート骨格5)が水素より大きい分子を透過しない大きさであることに着目し、常温で一酸化炭素混合ガスおよび窒素混合ガスによる水素分離能を確認したところ、多孔質無機膜では初めてパラジウム並みに高い水素分離能を得ることに成功しました。
今回開発した水素分離膜の特徴は次の通りです。
1) 安価な材料を用いた簡便な製膜法(塗布法)である
・10μの厚さで均一に製膜できる
2) パラジウム並みの水素選択能を有する(常温)
・従来の多孔質無機膜と比較して約100倍
この手法を用いれば、従来困難であったハニカム構造6)や凹凸多形のような複雑な形状の基板にも製膜できることから、分離膜の表面積をより大きくすることで、水素分離の高効率化かつ製膜基板の小型化を図ることが可能になります。
また、製膜法が簡便なので、基板の大型化にも対応可能です。
当社は今後、今秋中に材料メーカーやデバイスメーカー等複数社を募りマルチクライアントプロジェクトを立ち上げ、製膜プロセス、高温影響評価・解析等による最適化研究を経て、3年後の実用化を目指した受託研究を行っていく予定です。
なお、本手法は、塗布で10μ厚でも均一に製膜できることから、ディスプレイ等に使われるハードコートやガスバリア膜等、他の用途にも展開できる可能性があります。
用語解説
- 1)大阪大学との共同研究
- 当社がコンセプトを考案、ゼオライト材料と分離膜研究の専門家である大阪大学の西山助教授に研究を打診し共同研究を開始。主に大阪大学が分離膜の作製と水素ガス分離能の基礎評価を、当社では膜構造やコーティング液の分析を実施。
- 2)パラジウム
- パラジウムは表面で水素を吸着する性質を持ち、吸着時に電子と電離しパラジウム内で拡散、再び表面で結合して離れるため、水素のみ透過させる膜となりうる。
- 3)多孔質
- 数nm〜数十nmの小さな孔(あな)が無数にあいている材料。分子を吸着する能力を生かしてにおいや汚れを浄化する、ナノ材料作成の鋳型として用いる等の用途がある。多孔質ガラス,多孔質セラミックス,多孔質シリコン等。
- 4)アモルファス
- 分子・イオン等が結晶のような規則正しい配列をせずに集合している状態、またそのような物質。非晶質。
- 5)アルミノシリケート骨格
- シリコン酸化物とアルミ酸化物が互いに結びつき、ナノレベルで規則性を持った構造分子。
- 6)ハニカム構造
- 蜂の巣状の構造のこと。表面積も強度も大きい。
ご参考
- 大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 助教授 西山憲和氏
専 門 : 材料工学、拡散分離工学、反応工学
所属学会 : ゼオライト学会、化学工学会、触媒学会、日本膜学会 ほか
受 賞 : 日本膜学会膜学研究奨励賞、化学工学会奨励賞
Outstanding Paper Award of 2003 (Journal of Chemical Engineering of Japan)