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2006.5.22

世界最高強度を実現 ポリ乳酸繊維開発の新技術を確立しました

―強度1ギガパスカル以上と弾性率10ギガパスカル以上を達成―

  株式会社KRI(本社:京都市下京区、社長:中芝 明雄)は、世界最高の強度(1GPa(ギガパスカル)以上)と弾性率1)(10GPa以上)を有するポリ乳酸繊維開発の基本技術を確立しました。
  当社は今後、本基本技術を用いた実用化開発を行うため、繊維メーカー等企業を募りマルチクライアントプロジェクトを立ち上げる予定です。

背景

  代表的な生分解性樹脂であり、再生産可能な植物原料から製造されるポリ乳酸樹脂は、従来のプラスチックが使用されている用途(フィルム・シート、繊維・不織布、容器・ボトル、医療用資材等多岐の分野)において実用化が期待されています。
  一方、国内繊維業界においては、生分解性繊維は外国に比べて日本に優位性がある数少ない分野であり、国際競争力を高める上で更に高機能な繊維の開発が切望されています。
  ポリ乳酸繊維は、国内では既に数社から上市2)されていますが、強度や弾性率等においてポリエステルやナイロン等の代表的な合成繊維に劣るため、用途はかなり限定されています。
  この課題を克服するため、ポリ乳酸の分子量を上げる方法、特殊な延伸を行う方法等の研究が行われていますが、合成繊維並みの強度や弾性率を有するポリ乳酸繊維は未だ開発されていません。

今回の成果と特徴

  当社は、独自のコンポジット化技術やアロイ化技術、ナノ粒子製造技術、成形加工技術等をベースに、次の新規な手法を加えて、高強度・高弾性率のポリ乳酸繊維を開発する基本技術を確立しました。

1.  ナノフィラーとポリ乳酸との相互作用を高める為に、ナノフィラーに特殊な修飾を行う。
     (機能性ナノフィラー)
2.  ナノフィラーのサイズを通常のフィラーより小さく(1/10)とし、1)の効果によりポリ乳酸中に
      均一に分散させる。

  この結果、ポリ乳酸分子間に機能性ナノフィラーを介して架橋構造3)に似た絡み合い効果を持たせることが可能となり、紡糸・延伸条件の最適化により、繊維の高強度・高弾性化達成に必須の繊維軸方向により多くの分子鎖が配列した構造を発現させることができ、次のような性能を有するポリ乳酸繊維を得る事が出来ました。

●  従来ポリ乳酸繊維の2倍以上の高強度 : 1GPa以上(従来品は0.5〜0.6GPa)
●  従来ポリ乳酸繊維の2倍以上の高弾性率:10GPa以上(従来品は4〜6GPa)

  このポリ乳酸繊維の実用化により、これまで強度不足が理由でポリ乳酸繊維が使用できなかった工業分野、農・林・水産業分野、医療分野においても使用可能となり、従来のポリ乳酸繊維の用途・市場は格段に拡大します。
  また、従来ポリ乳酸繊維を用いていた製品にこのポリ乳酸繊維を使用すれば、繊維の使用量は約2分の1程度で済み、省エネルギー・省資源に大きく寄与します。

  実用化にあたっては、繊維の形態(製造方法による種類)4)や用途に応じたフィラー設計と製造条件の最適化を図ることが必要であり、繊維メーカーをはじめとするクライアント企業数社によるマルチクライアントプロジェクトを立ち上げ、共同で応用開発研究を行っていく予定です。
  なお、現在上市されている従来品に代わる用途においては、今後2年以内の実用化が可能と見ています。

用語解説

1) 弾性率
弾性限界内で、応力をひずみで割った値。
2) 上市されている繊維
代表的なポリ乳酸繊維の強度は、大体0.5-0.6GPaである。産業用繊維としては1GPa以上が求められ、従来のポリ乳酸繊維では全く対応が出来なかった。
3) 架橋構造
同種または異種の線状重合体,もしくは枝分かれ重合体の分子鎖間で化学結合が生じ、ネットワーク(網目)構造を形成すること。
4) 繊維の形態
繊維の製造方法による種類で、マルチフィラメント、モノフィラメント、ステープル等がある。

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