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2003.8.25

低コスト・高性能な光通信用デバイスの実現を可能にするケイ素樹脂「ポリシラン/ポリシラザン」を開発しました

  大阪ガス株式会社(社長:芝野博文)と株式会社KRI(社長:中芝明雄)は、光通信用デバイスを大幅に低コスト化でき、かつ耐熱性などの実用性能に優れるケイ素樹脂『ポリシラン/ポリシラザン複合材料』を開発しました。

  企業や一般家庭においてパソコンおよびインターネットが普及するにつれ、取り扱う情報形態が文字や数値から静止画(写真)、そして音声や動画へと高度化しており、ネットワークに対する「大容量化」、「高速化」が求められています。そのため、従来の電気信号によるネットワーク(LANケーブル)から容量の大きい光信号によるネットワーク(光ファイバー)への移行が期待されています。大容量化された光ネットワーク用の光通信装置の基幹部分には光導波路型素子1)が使用される場合が多く、その材料には、透明性、耐熱性が高い石英ガラス等の無機材料が用いられています。しかし、無機材料の加工には高コストな真空プロセス2)等の製造工程が必要なため、光通信装置は従来の電子式の通信装置と比べてはるかに高価な物となります。そのため、都市間を結ぶ幹線系ネットワークでは光方式に移行しているものの、メトロ系、アクセス系3)ネットワークの光化にあたっては、光回路部品の低コスト化が急務となっています。
  こうした背景を踏まえて、光導波路型素子を低コスト化するため、加工性の良好なアクリル系樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂材料の研究開発が進められてきました。しかし、透明性、耐熱性などの実用性能を満たす樹脂材料が得られていないのが実情です。
  今回、大阪ガス、KRIは、光通信装置の価格の重要な決定要因となる「光導波路素子」を大幅に低コスト化し、かつ無機材料に迫る実用性能を有するケイ素樹脂「ポリシラン/ポリシラザン」を開発することに成功しました。

  同材料は、ケイ素樹脂の一種であるポリシランを主成分とします。ポリシランは、簡便な塗布法で薄膜形成でき、1.7前後の高い屈折率4)を有し、かつ紫外線照射により屈折率を1.6以下に低下できるという特徴を持ちます。このため、薄膜形成後に、コア・クラッドの光導波路パターンが描かれたフォトマスク5)を通して露光するだけで、簡便に光導波路構造を形成できることから、光通信デバイスへの応用が期待されていました。しかし、ポリシランは、光や熱によって劣化するため、耐熱性や耐環境性に劣るという問題点があり実用化が困難となっていました。大阪ガス、KRIは、独自の技術開発により、ポリシランをベースに、加熱処理によって強固な無機(シリカ)ガラス状物質へと変性できるポリシラザンを組み合わせることにより、耐熱性、機械的強度など樹脂材料の弱点を克服し、デバイス形成後は無機材料に近い耐熱性・耐環境性・機械的特性を得ることができました。今回、早稲田大学理工学部応用物理学科の中島啓幾(ナカジマヒロチカ)教授の協力を得て、同教授グループが設計したパターンを用いてエッチングプロセスなしで光導波路型波長フィルタ素子6)を作製、光通信波長帯(1.3μm)で動作させることに成功し、同材料が実用性能を有することを実証しております。

  同素子は、メトロ系、アクセス系の光ネットワークに適用されると見られているCWDM7)光通信規格を想定して設計されており、今回実証された成果により、ポリシラン/ポリシラザン複合材料を用いた光ネットワーク用普及型光デバイスへの応用展開が進むものと期待されます。
  なお、この成果は今年8月30日から福岡大学で開催される第64回応用物理学会学術講演会で報告いたします。

用語解説

1)光導波路型素子
光ファイバーのように、高屈折率材料(コア)を低屈折率材料(クラッド)で覆った構造を基板平面上に有する、主に通信分野で使用させる種々の素子。後述の波長フィルタ等がある。光ファイバーは長距離に渡って光信号を伝送する(電気では電線に相当)のに対して、光導波路は、薄くて小型で、信号処理など種々の機能が追加できる(電気ではプリント配線板に相当)。
2)真空プロセス
光デバイスや電子デバイスを製造する際、装置内部の圧力を高度に低減して処理する工程で、一般にプロセス時間、装置価格、消費エネルギーなどの面で非真空プロセスに比べて大幅にコスト増となる。例:CVD→薄膜を精密に形成する工程、エッチング→不要な部分を精密に削り取る工程など。一方、非真空プロセスには、塗装、露光(光照射)などがある。
3)メトロ系、アクセス系
メトロ系は都市内の局間の光通信、アクセス系は各家庭と局との間の光通信ネットワーク。
4)屈折率
光を曲げる効率。光導波路型素子においては、コアとクラッドとの屈折率差が大きいと、より光を曲げ閉じ込めることができ、素子が小型化できる。
5)フォトマスク
写真のネガ原板に相当する、遮光部(黒色)と透光部(透明)で回路パターンを描いたもの。これを通して光照射を行うことにより、所望のパターンを下に配置した被照射物に焼き付ける。
6)光導波路型波長フィルタ
混ざり合った複数の波長の光の中から目的の波長の光を選択するための素子。波長の違うさまざまな光を1本の光ファイバー・ケーブルで同時に伝送する波長多重通信において、重要な素子。
7)CWDM:(Coarse Wavelength Division Multiplexing)
複数の波長の光を混ぜ合わせ、一本の光ファイバー中に通すことにより、伝送量を高める技術(WDM)の中でも、末端に近い部分(メトロ系、アクセス系)で使われる、束ねる波長数の少ない伝送技術。

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