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2003.7.2

透明性に優れたアサーマル(温度無依存)光学材料を開発しました

〜「有機無機複合ランダムナノ構造体」により高分子材料のアサーマル化を実現〜

  株式会社KRI(社長:中芝明雄)は、透明性に優れたアサーマル(温度無依存)光学材料を開発しました。

  レンズやフィルター、光ファイバーといった光学素子は、先端光学部品・デバイスに必要不可欠なものです。 代表的な光学材料はガラスやセラミックの透明無機(1)材料ですが、ここ数年は、ガラスやセラミックより低コストで軽量、かつ成形が容易なプラスチックなど有機(2)高分子(3)材料の普及が進み、眼鏡用レンズや光ディスク用対物レンズ、 プラスチック光ファイバー等に使われています。

  光学部品・デバイスにかかわらず全ての物質の屈折率(4)は温度によって変化します。一方、屈折率が異なると、 波長や焦点距離等に変動をきたし製品の性能に影響を及ぼします。特に高分子材料の場合は、屈折率の温度変化率が ガラスやセラミック等に比べて10倍以上であるため、低コスト・軽量・成形が容易という特長があるにもかかわらず 光学分野での展開が限定されていました。このような背景から、温度が変化しても屈折率が変化しない物質が求められていました。

  アサーマル化(温度無依存化)を実現するには、熱による材料の膨張をゼロにし、かつ屈折率の温度依存性をゼロにする 必要がありますが、現在そういう物質は存在しません。ガラス等の透明無機材料においてもプラスチック等高分子材料においても、 アサーマル化に向けての研究はこれまで種々試みられていますが、いずれも、補助材料を必要とするため構造が複雑になり高価になる、 使用できる材料が限られる、あるいは材料の透明性が低下したり製作過程で寸法変化をきたすなどの問題を残していました。


  このような問題を解決するのが今回当社が開発した材料です。当社の保有技術である'有機・無機複合化技術'と'ナノ粒子合成技術'を ベースとし、透明高分子材料中にナノメートルサイズ(5)の無機微粒子(無機ナノ粒子)を均一に分散させた複合体「有機無機複合 ランダムナノ構造体」(6)を用いて開発しました。母材に均一分散させる無機ナノ粒子に屈折率の温度変化率または熱膨張係数が 母材の樹脂と逆符号を有するものを選定することでアサーマル化が実現しました。

この材料の主な特徴として、次の点が挙げられます。

  • 1.  30ナノメートル以下の無機微粒子(無機ナノ粒子)が母材中に均一に分散しているため、レーリー散乱(7)等による 透過性の損失が抑えられ、高い透明性を維持できる。
  • 2.  母材となる高分子材料と無機ナノ粒子との選択幅が広いので、レンズのようなバルク光学部品(8)から 光導波路(9)のような薄膜光学素子まで様々な屈折率に対応でき、広範囲のニーズに対応できる成形加工性が得られる。
  • 3.  無機ナノ粒子の添加濃度を変えることにより、屈折率の温度変化率を自由に変えられるので、
  ●材料自体の屈折率の温度変化率をゼロにすることが出来る。
  ●屈折率の温度変化率が異なるさまざまな異種材料に密着・塗布して使用する場合、その異種材料(基板材料)の 温度特性も含めた全体の屈折率の温度変化を制御することが出来る。

  今回当社では、無機ナノ粒子に酸化ニオブ(Nb25)を選定し、屈折率の温度依存性および屈折率温度変化率の 添加量依存性を確認しましたが、引続き種々の無機ナノ粒子を用いたアサーマル材料の開発を進めていきます。

  今後は、光ファイバー等光通信用デバイスやマイクロレンズアレイ等各種微小光学部品への応用展開(実用化)に向けて、 光学部品メーカー等複数の企業を対象に本年10月からマルチクライアント受託研究プロジェクトをスタートさせ、 各ニーズや用途に応じた応用研究を行っていく予定です。


《補足:光通信分野におけるニーズと効用について》
  政府主導のもと官民一体となり「e-Japan計画」が推進されています。このようなIT化の核となるのがインターネットです。 インターネット電話などの導入で知られているように、今後、さまざまな情報がインターネットを通じて一般家庭に 取り込まれていくことになります。つまり、高速・大容量情報通信技術の波が一般家庭に及ぶことになりますが、 そのインフラとなるのが光ファイバー通信網です。すでにFTTH(ファイバー・トゥー・ザ・ホーム)の実用化が進んでいますが、 全国津々浦々に光ファイバー通信網を普及させるためには、高性能光部品の低価格化が必須要件となります。 高性能光部品に高分子材料が使えるようになると、このような光通信網の普及を促進することになります。
  この光ファイバーに使われるグレーティングフィルターは、一本で、一つのデータを運ぶ一つの波長を得るわけですが、 この製作費用が一本約20センチメートル程度で数百万円と大変高額であり、なおかつ温度を一定に保つために付けられた 温度コントローラ(ペルチェ素子)が働くたびに多くの電力を消費するためランニングコストも高額である等の問題があります。 光通信網が都市圏(メトロ系光ネットワーク)やアクセス系光ネットワークまで浸透していく上で、大きな阻害要因の一つになると 思われます。アサーマル材料をこのフィルターに使用すれば、温度制御のための補助材料をつける必要もなくなり、 材料費のみならず従来に比べて省エネルギーになるため約1/100以上のコストダウンが図れます。

脚注

1. 炭素以外の元素の化合物、および一酸化炭素・二酸化炭素・炭酸塩などの簡単な炭素化合物を総称して無機化合物という。
2. 炭素を含む化合物(二酸化炭素や金属の炭酸塩などの少数の例外を除く)を総称して有機化合物という。
3. 分子量が約一万以上の分子。多くは鎖状であるが、網状のものもある。
4. 光が二つの媒質の境界で屈折するとき、入射角の正弦と屈折角の正弦との比。両媒質中の光の速さの比に等しい。
5. 1ナノメートルは10-9メートル、すなわち 10 億分の 1 メートル。
6. 高分子材料(母材)中に、ナノメートルサイズの無機材料を均一に(凝集しないように)分散させて形成された複合材料。
7. 光の波長よりも小さな粒子などによっておこる散乱。波長の4乗で散乱の大きさが変化するため、可視光、 特に青色での散乱が大きくなりやすく、透明性を阻害する。
8. 形状が厚みのあるレンズ等を総称してバルク光学部品という。
9. 屈折率が相対的に高い材料からなる薄膜を、屈折率が相対的に低い材料で挟み込んだ構造からなる光学素子。 屈折率が高い薄膜中に光を結合させると、屈折率が低い材料との界面で全反射しながら伝搬する。

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