株式会社KRI(本社:京都市下京区、社長:川崎真一)は、放熱する温度を自在に制御できる蓄熱組成物を開発しました。この技術を応用することで、熱エネルギーの長期保管、輸送を効率的に行うことが可能です。また、本蓄熱組成物は、容器不要で自由な形状に成形することができます。
背景
地球温暖化問題やエネルギー問題を背景に、再生可能エネルギーの利用拡大や新しいエネルギー源の活用が望まれています。熱エネルギーは、身の回りにありふれていますが、これまであまり積極的に活用されてきませんでした。蓄熱材1)は、蓄熱したエネルギーを放熱して取り出すことができますが、熱エネルギーを簡便に長期保管することは難しく、これまであまり利用が進んでいませんでした。この度、KRIが開発した技術は、従来の潜熱蓄熱材をある特定の樹脂と混合するだけの簡便なプロセスで作ることができるもので、熱エネルギーの長期保管を可能にするものと期待できます。
本技術の特徴
(図1)
(3)その他の特徴
本蓄熱組成物は、潜熱蓄熱材と樹脂(オレフィン系樹脂、ゴムで実績有)を混合したもの(コンポジット)であることから、軽量であり、蓄熱材の融点以上でも液体が漏れ出さず固体形状を維持できるので、そのまま熱で溶融・軟化し、成形することによって様々な形状へと賦形することが可能です。水や従来の潜熱蓄熱材と異なり、容器やカプセル化が不要になるという実用上のメリットがあります。(図2、3)
今後の展開
以上のように、本蓄熱組成物は、従来の潜熱蓄熱材では見られなかった特徴を有しています。実用上は、ある決めた温度以下になると発熱するように設計することで、例えば、建材などの冷暖房補助材としての応用や、自動車などで排熱等を利用した保温材としての応用が期待され、電気自動車(EV)では空調によるバッテリー負荷を低減させるために活用することもできます。また、工場等で発生する廃熱の有効利用や、太陽光で作られた電気を熱として貯めることも可能です。一方で、吸熱を活かした冷却材としての応用、例えば電子部品の急激な温度上昇を防ぐといった使い方も可能です。
また、本蓄熱組成物は、上述の通り潜熱蓄熱材と樹脂を混合したもの(コンポジット)であることから、射出成形、トランスファー成形といった賦形技術を用いることで、軽量で複雑な形状の蓄熱製品として提供可能です。
今後、本技術を応用して実用的な特性を有する蓄熱材を開発するための受託研究を募集します。
用語解説
- 1)蓄熱材
- 水を温めた時のように顕熱を利用するものや、氷やパラフィン等が融解する時の潜熱を利用するもの、あるいは化学反応を利用するものなどが知られています。潜熱蓄熱材は、物質が融解と凝固(結晶化)のような相変化を繰り返すことで蓄熱と放熱を行うもので、蓄熱した熱エネルギーを取り出す温度は、蓄熱材の結晶化の温度で決まります。
- 2)ヒステリシス
- 潜熱蓄熱材の融解と凝固の温度差のこと。通常、凝固点は融点よりも数℃から5℃程度低くなりますが、KRIが開発したものはこの差が20〜30℃もあり、このように温度差があるものは珍しいです。
- 3)熱エネルギーの長期保管を可能にするもの
- 潜熱蓄熱材の中には、酢酸ナトリウム3水和物のように、過冷却によって蓄熱状態を長期間維持できるものもありますが、このようなものは、衝撃や圧力等の刺激を与えない限りは熱を取り出せないという制約があります。化学蓄熱材は、蓄熱したエネルギーを長期保管できますが、反応器が必要になる等、簡便なシステムとしては実現し難いものです。