株式会社KRI(本社:京都市下京区、社長:川崎 真一)は、軽量遮音材を開発しました。この軽量遮音材は、一般的な遮音材の16分の1の重量で同等の遮音効果を実現します。
背景
自動車の自動運転技術の発達に伴い、車内環境、特にエンターテイメント性が重要視されています。このため車内の静粛性がますます重要になってきました。また、普及が進む電気自動車(EV化)は、従来のエンジンより静粛性の高いモーターに置き換わるため、従来の自動車ではエンジン音に紛れて気にならなかった音、特に走行時のロードノイズ(走行時の「ゴォー」という低い音域の不快な音や「シャー」という1000Hzあたりの耳障りな音)が目立ってくるため、ロードノイズに対する対策が求められています。
従来の遮音材は、質量が大きいほど遮音性が高くなる性質を有しているため、遮音材を車に使用することで自動車の重量がふえ、燃費の悪化や運動性能に大きく影響を及ぼすので、大量に遮音材を使用することが難しいのが現状です。
本技術の特徴
一般的に遮音材はゴムなどの重い材料が用いられています。これは、質量が大きいほど遮音性が高くなる「質量則」という物理法則に従うためです。今回開発した遮音材は、この質量則に従わず、軽量でありながら優れた遮音性を発揮します。具体的な特徴としては、
応用分野
運輸分野では、自動車、鉄道車両、航空機や船舶などの輸送機器に使用することで、同じ遮音性能を従来の16分の1の質量で実現できるため、燃費や運動性能の向上が期待できます。
遮音性能に周波数選択性があるため、自動車で課題となるロードノイズを選択して遮音するのに有効です。自動車の軽量化により燃費や運動性能が向上します。走行に必要な燃料や電力が少なくて済みますし、遠心力などの慣性力が小さくなりますのでカーブでの旋回性やブレーキ時の制動性が良くなります。
また、住宅に使用する建材では、ドアやふすま、障子などを質量を大きくすることなく、防音性能を高めることができますので、防音性能を持ちつつ、力の弱い方でも開閉が容易な建材の提供が可能になります。住宅向け建材以外にも持ち運びの可能なテントやパーテーションに今回開発した遮音材を用いることで設置や運搬を楽にすることができます。今回開発した遮音材を用いた製品を大量に運搬する際は、従来の製品より多量に運搬可能になるので、トラックなどの運搬手段から発生する二酸化炭素の排出を抑えることにもつながります。
さらに、機械などから発生する低周波領域の不快な音、いわゆる「こもり音」を抑制できるので、工場の送風機、プレス機、真空ポンプ、ボイラーなどに用いると、工場内の作業者へのストレスを低減し、作業効率を向上するのも有効です。
このように遮音性能があり軽量な遮音材が求められる幅広い分野への展開が期待できます。
用語解説
- シリカエアロゲル
- 1〜3nmのシリカ(二酸化ケイ素)の骨格と数十nmの空間から成り、気孔率が90〜95%で密度が0.12g/cm3程度の材料です。数十nmの空間は大気圧の空気分子の平均自由行程の68nmよりも小さいので空気分子の運動を抑制し、熱伝導率0.012W/m・Kの断熱性を実現しています。
- セルロースナノファイバー
- セルロースを解繊して得られるミクロフィブリル(直径約20nm)やエレメンタリーフィブリル(直径約5nm)の総称です。原料や製造方法によりますが、比重が1.6、強度は約10GPa、弾性率は約145GPa、線膨張係数は約0.1ppm/Kであり、軽くて強く、熱による寸法変化が小さい特長があります。フィラーとして樹脂と複合化することで強度の向上や熱膨張の抑制ができます。また、水中での微粒子の分散性向上やチキソ性の増粘剤として塗料、化粧品や食品への添加など様々な利用が期待されています。
- 質量則
- 音響透過損失(遮音性)は、材料の単位面積当たりの重量(面密度)と音の周波数の積の対数にほぼ比例します。質量が大きいほど遮音性が高くなるので質量則と呼ばれています。