日刊工業新聞2022年10月19日掲載
「CO2固体吸収剤評価」(pdf)
※日刊工業新聞社に転載許可を申請し、承認を受けて掲載しています。
はじめに
大気中のCO2を分離回収するDAC(DirectAirCapture)プロセスのキーマテリアルとしてCO2の固体吸収材に関心が寄せられています。 固体吸収材は、例えば多孔質な担体にCO2を化学吸収する低分子のアミンやポリアミンを担持した材料で、CO2に対する選択性に優れ、 再生に要するエネルギーが小さい一方、コストが高く、繰り返しの耐久性に乏しいという問題があります。
また、サイクルあたりのCO2回収量を向上させ、再生エネルギーをさらに低減させることも課題として残されています。 KRIは、新たに開発した固体吸収材の評価装置を用い、CO2の吸脱着に係る基本的特性とともに、実環境に近い条件で固体吸収材の耐久性の評価を行い、 クライアントにおけるDACプロセスの技術開発に貢献します。
関連記事 では、固体吸収剤のメリットや開発トレンドについてご紹介いたしましたが、本記事では評価装置と評価装置を用いた評価結果、そして今後の活用方法等について解説いたします。CO2固体吸収剤の評価装置
KRIは、DAC条件下で使用するCO2固体吸収材の評価装置を開発しました。
装置は、固体吸収材を充てんする評価用セル、加熱・冷却を行うペルチェユニット、各種ガスの定量供給系、 再生用の真空ポンプ、センサーおよび制御システムにより構成されており、その特徴は以下のように要約されます。
・グラムスケールの固体吸収材を用い、DAC条件下でのCO2吸脱着特性の評価ができる
・高精度のCO2センサーを用いることで、吸脱着におけるCO2濃度の変化を連続的に定量できる
・実際の使用環境をふまえ、供給空気の水分量(相対湿度)を調整することができる
・固体吸収材の再生は減圧と加温を組み合わせて行うことが可能で、減圧度と温度は可変である
・ペルチェ式の加熱/冷却装置を導入しており、昇温/冷却の応答性に優れる
・吸収〜昇温〜再生〜冷却の条件をシーケンスとして設定することで、連続的なサイクル運転ができる
サイクル試験におけるガス、圧力及び温度の制御イメージ
先ず、一定圧力・温度で供給ガス(例えば、空気、CO2:400ppm)を流し、固体吸収材にCO2を吸収させます。 固体吸収材が所定の吸収レベルに達した時に供給ガスを停止し、減圧や加温によって固体吸収材からCO2を脱離させます。 必要に応じて微量のスイープガス(例えば、N2)を流し、再生CO2の分圧を下げることで脱離を促進させます。
再生時には高濃度のCO2ガスが排出されるため、CO2センサーの測定可能レンジに応じて希釈ガス(例えば、N2)を導入します。 希釈ガスは減圧時に再生ガスの流動状態を安定させることにも役立ちます。
固体吸収材が所定の再生レベルに達した後で圧力をもどし、固体吸収材を冷却して、次の吸収工程の準備をします。
サイクル試験における吸収〜昇温〜再生〜冷却の各工程の時間と条件は、装置のコントロール画面から所定の範囲で任意に設定可能であり、 連続的なサイクル運転により、固体吸収材の長期耐久性を評価することができます。
固体吸収材のCO2吸脱着性能の評価結果例
KRIが試作したCO2固体吸収材を用い、本装置によって、CO2の吸脱着の繰り返し試験を行いました。 繰り返しサイクルは、CO2の吸収(25℃): 90分〜再生(100℃・減圧): 80分〜冷却: 10分としました。下図では4サイクルの吸脱着の様子が示されています。
吸収時には、濃度500ppmのCO2を含む相対湿度40%の模擬空気を、一定流量で流し、固体吸着材にCO2を吸収させ、出口(排気)のCO2濃度を測定(紫・点線)しました。排気CO2濃度は、吸収が始まると速やかにゼロになりますが、しだいに増加し、固体吸収材がCO2でほぼ飽和されると、模擬空気の濃度に一致するようになります。図の桃色で囲ったエリアが、1サイクルあたりの固体吸収材のCO2吸収量に相当し、面積が大きい程、CO2吸収能力に優れた固体吸収材であることを示します。
再生時には、模擬空気の供給をバイパスさせ、CO2を吸収した固体吸着材を100℃に昇温し、減圧して固体吸収材からCO2を脱離させます。同時に、少量の窒素ガスを固体吸着材に導入し、CO2の脱離を促進させます。再生を開始すると高濃度のCO2が排出(紫・点線)され、排気CO2濃度が大きく増大してピークを示し、その後低下して濃度はゼロになります。図の水色で囲ったエリアが、1サイクルあたりの固体吸収材からのCO2脱離量に相当します。
なお、下図において桃色と水色の面積は一致していません。これは、CO2センサーの測定濃度範囲内とするため、再生時には排気に希釈ガス(N2)を導入してCO2を希釈していること、また、吸収時と再生時で排気流量が異なること等によります。
固体吸収材の耐久性の評価結果例
KRIが試作したCO2固体吸収材の耐久性を評価しました。
固体吸収材は、シリカ系の担体に低分子量のアミン化合物を担持させたものです。 CO2の吸収量および脱離量は、前頁の測定結果から算出し、1回目の吸収量を100%として示しました。
サイクル数3回目までは、吸脱着を繰り返してもCO2吸収量に大きな変化は認められませんでしたが、 4回目以降は、サイクル数が増えるにつれ、吸収量が低下することがわかります。
吸脱着を繰り返すことにより、特に再生時に加熱と減圧を繰り返し行うことで、アミン化合物の一部が担体から脱離し、CO2吸収性能の低下をもたらしたと考えられます。
DAC用の固体吸収材には、繰り返し吸脱着に対する極めて高い耐久性が求められます。 下図に示した固体吸収材は初期的に試作したもので、その耐久性は乏しく、実用には及ばないレベルにあります。
蒸気圧の低い吸収剤を用いること、担体と吸収剤とに化学的な結合を形成させる等のアプローチにより、さらに耐久性に優れた固体吸収材を開発する必要があります。 こうした耐久性の定量的な評価において、KRIの評価装置をご活用頂けると考えています。
技術開発の経緯と今後の活用方法などのまとめ
技術開発の経緯と今後の活用方法について表にまとめました。
まとめ
KRIでは、DAC固体吸収剤の評価装置を開発し、実環境に近い条件で耐久性の評価が可能になったことをご紹介しました。
固体吸収剤の評価を希望される方は、ぜひ当部までお問い合わせください