背景
水中で天然多糖類から水素ガスを製造できる触媒開発を目指して
水素ガスは近年クリーンエネルギーとして注目されており、太陽光などから得られる自然エネルギーを利用する水素が製造されています。しかし将来的に水素の需要は増す見込み(日本国内の水素需要 2025年: 5万トン ? 2050年: 2000万トン 矢野経済研究所調べ)で、供給量の確保への対策が急務です。
KRIではこの課題に対して、触媒を用いた天然多糖類の液相反応によって水素ガスを製造する技術の確立を目指しています(図1)。天然多糖類は循環可能資源として活用方法に注目が集まっており、水素ガスの原料としても使われてきました。従来、天然多糖類から水素を得るためには、加熱処理によって炭化水素ガスやタールとした後、加熱水蒸気と反応させています。この際にはCOやCO2が副生します。
KRIでは新たなアプローチとして、100℃程度の水中において天然多糖類から水素を製造することを目標に触媒の開発を進めています。この手法では天然多糖類をそのまま反応させることで、1段階で水素ガスを製造します。また副生成物は脱水素化(酸化)された多糖類の固体のみとなるため、気体である水素ガスの分離が容易であることが特徴です。さらに副生成物である酸化された多糖類は、例えば酸化セルロースが止血帯などで使用されているように、材料としての用途が見込まれます。
このような天然多糖類から低コスト、低エネルギーで安全に水素を製造する技術は、環境調和型社会の構築の鍵になると考えられます。
技術の特徴(1)
●セルロース中の水素を活用できる触媒
セルロースは地球上に最も豊富に存在する材料で、入手の容易性や安全かつ自然循環により再生可能であることから、その活用方法について活発に研究されています。我々はセルロースから低エネルギーで水素ガスを製造できる触媒の探索を進める中で、この度セルロース分子中の水素原子を有機化合物に移動させる手法を見出しましたのでご紹介します。
KRIが見出した手法では、セルロースと反応基質、および固体触媒を水に加え、加熱撹拌するだけで水素化できることが特徴です(図2)。セルロースと触媒が水中で反応することによって、水素化能力を有する金属-水素活性種が中間体として形成していると推察しています。本手法では、従来の水素化反応で必要であった過剰量の水素ガスや金属水素化物のような低安全性で高価な試剤は一切不要です。
技術の特徴(2)
●芳香族ニトロ化合物の水素化反応
セルロースを用いた水素化反応に適用できる物質としては、例えば芳香族ニトロ化合物が挙げられます。
ニトロ化合物の水素化反応は化学産業でよく使用される反応のひとつで、水素雰囲気下でパラジウム炭素触媒を使用したり、鉄紛や塩化スズなどの試薬を酸性条件下で量論量以上使用して行われています。
KRIの技術では、上述した通りセルロース、ニトロ化合物および固体触媒を水中で加熱撹拌するだけの簡単な操作で、目的物であるアニリン類を得ることが出来ます(図3)。さらに反応後のセルロースや触媒は有機溶媒に不溶な固体であるため分離が容易で、溶剤抽出で生成物を簡単に取り出すことが可能です。
KRIからのご提案
●バイオマスの有効活用に関する技術開発
今回、水素源(H2等価体)として天然多糖類が利用できることをご紹介しました。今後、バイオマス成分として、糖類やグリセリンなどを含んだ廃棄物や食物残渣の直接利用に展開することで、社会課題解決を目指しています。また本技術は天然多糖類から1段階で水素ガス製造を目指す研究(図4の点線部分)の先駆けであり、こちらの技術開発についてもご一緒に進めていただける企業様を募集しています。
さらにKRIでは、図4に示すようなバイオリファイナリーに関連した多くの技術(溶解、膨潤・修飾、熱可塑化、触媒による単糖化や誘導体化など)を有しています。これらの技術を駆使し、バイオマスの有効活用技術の開発について様々なニーズにお応えできますので、お困りの課題等がございましたら、お気軽にお問合せください。